中同協・中小機構トップ対談【第1回】
中小企業の発展を目指し、連携した取り組みが重要
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 理事長 豊永 厚志氏
中小企業家同友会全国協議会 会長 広浜 泰久氏

 中小企業基盤整備機構の豊永理事長と中小企業家同友会全国協議会の広浜会長のトップ対談が行われ、同機構が運営する中小企業向けのポータルサイト「J-Net21」に掲載されました。中小機構の了解のもと本号より3回にわたって転載します。

 国内の観光地は賑わいを取り戻し、大企業では大幅な賃上げが相次ぐなどコロナ禍で打撃を受けた日本経済に明るい兆しがみえてきた。その一方で、急激な円安の進行やエネルギー・原材料価格の高騰で中小企業を取り巻く環境は不透明感を増している。先行きが見えにくい中で、日本経済を下支えする中小企業はどう経営のかじ取りをとるべきなのか。中小企業経営者の全国組織、中小企業家同友会全国協議会(中同協)の広浜泰久会長と中小機構の豊永厚志理事長が対談し、ポスト・コロナ時代の中小企業経営を展望した。

中小企業家の名称に経営者の矜持を感じる

―豊永理事長は経済産業省で中小企業政策を担当されていたころに広浜会長とお知り合いになったそうですね。

豊永 私が中小企業庁次長だった2010年、策定されたばかりの中小企業憲章(同年6月閣議決定)の冊子を手に中同協を訪れたのが最初の出会いでした。憲章を普及させることが私の仕事でしたから。

広浜 北海道で開催された中同協の定時総会(2011年7月開催)にも出席していただき、憲章を説明してもらいましたね。

豊永 その後、私は日本政策金融公庫(日本公庫)の中小企業事業本部長をつとめ、広浜さんは中同協の会長になられたので、必然的にいろいろな場所でご一緒することになりました。広浜さんの会社(株式会社ヒロハマ)と工場も見学しました。

広浜 一番印象に残っているのは、日本公庫の中小企業懇話会(日本公庫の各支店融資先で組織する会)の女性部の全国大会が大阪で開かれたときのこと。女性ばかり数百人が集まったなか、男性は私と豊永さんの2人だけで参加し、緊張して汗をかきながら挨拶したのを覚えています。

豊永 中同協については「中小企業」ではなく「中小企業家」という名称に会員の矜持(きょうじ)を感じています。企業の代表という意識ではなく、ひとりの経営者として参加しているという気概も感じられます。

広浜 豊永さんと話していると、われわれ中小企業が大切にしている誇りや自助努力のことをよく理解していることがわかります。素晴らしい方が理事長のポストに就いていただいて非常によかったと思います。

価格高騰・人手不足が新たな問題に

―新型コロナウイルスの感染拡大は中小企業の経営に大きな影響を与えました。中同協としてどのような対応をとられたのでしょうか。

広浜 まず中同協としては早い段階で「1社もつぶさない」との強いメッセージを会員に向けて発信しました。ゼロゼロ融資など各種の支援策を紹介し、今後の営業キャッシュフローの見通しによっては業態・業種の転換も提案しました。私の会社では、期中にいったん多額の赤字となったが、雇用調整助成金を受給するなどして黒字に戻すことができました。また、コロナ禍で仕事がなくなったのをいい機会ととらえ、生産性向上に向けた取り組みを行ったのも大きかったです。会員の中にも同様にさまざまな取り組みを進めた企業がありました。禍を福に転じたわけですが、これも会員が各地域の同友会で勉強を続けていたからだと思います。

豊永 中小機構の中小企業景況調査では、景況感はリーマンショックの時よりも悪かった。今は回復過程にあり、特にDX(デジタルトランスフォーメーション)などに備えていた企業は早くに回復しました。ピンチをチャンスに変えられたケースも多かったのでは。一方で、米国の金利上昇による円安やロシアのウクライナ侵攻、原材料価格の高騰などが回復基調に水を差しています。またコロナ禍で中小企業がスリム化したため、今は逆に人手不足に悩んでいるようです。

広浜 今は2つの問題があります。ひとつは資材価格の高騰。それも半端ではない高騰です。その上昇分を取引価格に転嫁できるかが重大なポイントで、転嫁できたところとできないところとで二極化が進んでいます。もうひとつは人手不足。とくに大手企業が賃上げを進めていて、大手と中小の格差がさらに広がりつつあります。給料については最低賃金の問題もあります。(社会保険の扶養の範囲内となる)「130万円の壁」があり、パート従業員は時給を上げると労働時間を減らしてしまう。ただでさえ人手不足なのに、何のために給料を上げたのかわからなくなります。

豊永 中小企業庁の調査では、原材料費の上昇分は比較的転嫁しやすいが、人件費と光熱費は難しい。ただ最近は価格転嫁に対する大企業の意識も変わっているようです。

広浜 確かに業界のアンケートでも1年前には原材料価格分だけの値上げしかできなかったが、昨年7月ごろには昇給分などその他もろもろの分も値上げしようとする会社が増えてきました。中小企業も勇気をもって大企業と価格交渉すべきでしょう。

(5月5日号に続く)

中小企業基盤整備機構中小企業向けのポータルサイト「J-Net21」

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j-net21.smrj.go.jp

<プロフィール> 広浜泰久(ひろはま・やすひさ)

 1951年東京都生まれ。
 慶応義塾大学経済学部卒業。缶メーカーを経て父・重治氏が創業した広浜製作所(現ヒロハマ、東京都墨田区)に入社。
 1991年に社長に就任。業務用缶のキャップメーカーとして業界2位だった同社を在任中にトップに。2008年から会長。
 中小企業家同友会には1990年に入会し、中小企業家同友会全国協議会(中同協)幹事長を経て2017年7月、会長に就任。

<プロフィール> 豊永厚志(とよなが・あつし)

 1956年鹿児島県生まれ。
 東京大学法学部卒業。1981年通商産業省(現経済産業省)入省。
 中小企業庁次長、大臣官房商務流通審議官、日本政策金融公庫専務・中小企業事業本部長などを経て2015年に中小企業庁長官に就任。
 翌年に退官し、みずほ銀行顧問を経て2019年4月、中小機構理事長に就任。

「中小企業家しんぶん」 2023年 4月 25日号より