【あっこんな会社あったんだ】
出会いとお別れの間で愛情を紡ぐ看取りの家~経営デザインシートで新規事業を創造
合同会社イノチテラス 代表 浅原 聡子氏(静岡)

 静岡で介護事業などを営む合同会社イノチテラス代表の浅原聡子氏。同友会で学んだ経営指針と経営デザインシートが経営の大きな力となり、それが経済産業省のサイトにも掲載されました。浅原氏の実践とそれに関わった一般社団法人日本金融人材育成協会会長の森俊彦氏のコメントを紹介します。

看護と介護が一体となった看護小規模多機能イノチテラス

 2023年1月に、看護小規模多機能型居宅介護、指定訪問介護、住宅型有料老人ホームの3つの機能をもつ施設「イノチテラス」が開設されました。それぞれの機能を一元化することで、利用者はひとつの施設で完結でき、利便性とともに安心感を得ることもできます。施設には広々とした屋上があり、富士山や南アルプス、駿河湾まで眺望できます。「ここで利用者さんとスタッフで安倍川の花火を見ることができた時、初めて施設が利用者のお役にたてている実感を持ち、泣けるかもしれない」と浅原氏は語ります。

経営指針書と経営デザインシートから生まれた看取りの家

 浅原氏は1990年に看護師となり、県立こども病院で20年間勤務しました。退職後グリーフケアについて学び、2012年にグリーフカウンセラーの資格を取得。2013年に個人でグリーフカウンセリングの事業を開業し、2016年に同友会に入会しました。入会後、経営指針を創る会に参加し「働き方、家族の形、個人の在り方などが変容する中、これまでと同じ考え方や生き方では追いついていかない部分がある。人の生きる力を支えることや看取ることの捉え方、その土壌づくりや教育のためにもっとやれることがある」と「看取りの家」をつくることを決意します。

 その後同友会での勉強会をきっかけに、内閣府が推奨する経営デザインシートを作成しました。財源や実績の無い中で、10年先の将来像を経営指針書と経営デザインシートというツールで示し、施設や会社の将来像を金融機関に伝えられたことで、4つの金融機関から無担保融資を受けられ、夢だった施設を開所させました。

経営理念から生まれるチームワーク

 浅原氏にとって特に大切なのは、共に働くスタッフの皆さんの思いだと言います。オープンに向けたスタッフ研修では、まず経営理念を共有することから始めました。スタッフは浅原氏の思いに共感し入社したため、理念をよく理解して積極的に行動・提案をしてくれます。例えば、食事を出す際に温かいご飯を食べてもらいたいので、ご飯をよそうのはキッチンではなく食堂にしたいと浅原氏が言うと、スタッフから「それなら味噌汁も食堂で入れた方がよいのでは?」と提案がありました。細かいひとつひとつのサービスをスタッフと共に考えていく中で、スタッフの思いと愛情を表現する施設をここからめざします。

 施設内にはスタッフによる手作りのPOPがあちらこちらに掲示され、来場者をお迎えします。「理念があって方向が明確であれば、スタッフのチームワークがよくなる。これからが楽しみです」と浅原氏は語りました。

会社概要

設立:2020年6月
社員数:18名(社員・パート含む)
事業内容:合同会社イノチテラス(介護事業)、グリーフカウンセリングivy(グリーフケアに特化したカウンセリング 生と死、いのちに関するセミナー講演等)
URL:https://nursing-agency-5044.business.site/

不確実な時代にこそ威力を発揮する経営デザインシート

一般社団法人 日本金融人材育成協会 会長 森 俊彦氏

 浅原さんと私のやり取りは1年半になります。私が静岡同友会主催セミナー「地域金融の未来と中小企業の関係」において、基調講演を行った際に参加されていて、浅原さんから「夢の実現にはお金が必要で、金融機関との関係をどのように作っていけばよいですか」とのご質問をいただき、お答えしたことがスタートでした。

 地域金融機関は地域経済発展の「伴走者」です。地域経済は、浅原さんの「イノチテラス」のような中小企業が、数では 99・7%、雇用の7割を担っていますので、ずばり、「中小企業の健全な発展に資することが地域金融機関のミッション」です。

 中小企業が存続・発展すれば、地域経済がしっかりします。金融機関の存続・発展とも表裏一体ですので「共通価値の創造」と言われています。

 浅原さんは、看護師としてグリーフケアの経験は豊富。ほぼすべて知的財産です。ただ、「可視化されたもの」ではなく、目に見えない価値ある資産、無形資産です。

「知財・無形資産の可視化のツール」が経営デザインシートです。経営デザインシートによって、経営者の夢の絵姿を具体的に可視化する。そして、バックキャストによる、現状から未来の夢の実現に向けての「移行戦略」が具体的になると、「事業の数値計画も裏づけのしっかりしたもの」となる。事業者と金融機関が共に歩んでゆくことができる。この典型的な事例が、浅原さんの「イノチテラス」です。

 コロナ禍や国際紛争など、不確実性が高く、非連続な状況、これを英語の頭文字をとってVUCAといいます。こうした環境下では、まさに自らの「生きる姿」、「パーパス、存在価値」を基に、経営デザインシートの思考法を使いこなして、明るい未来づくりに皆さんが取り組んでいく。それらは社会課題の解決につながるし、金融機関からすると、持続可能な地域づくりに向けた融資の実践ということになるのではないでしょうか。共に明るい未来をつくってまいりましょう。

(経済産業省中国経済産業局中国地域知的財産戦略本部のサイトより一部転載)

経済産業省「社会課題解決に向けた新規事業創造と経営デザインシート」

「中小企業家しんぶん」 2023年 6月 15日号より