【知っておきたい採用のあれこれ】第3回
求人票不受理への実務対応①
(株)エム・ソフト 顧問・社会保険労務士 西秀樹氏(東京)

 昨年10月、改正職業安定法が施行され、労働者の募集を行う際のルールが変わりました。改正職業安定法について解説する本連載「知っておきたい採用のあれこれ」。第3回目は「求人票不受理への実務対応(1)」です。

 新卒一括採用の慣行の中、新卒採用時のトラブルは、職業生活に長期的な影響を及ぼす恐れがあることから、厚生労働省は所轄のハローワークに一定の労働関係法令違反があった事業所に対して、一定期間、新卒求人を受け付けない「不受理」を設けました。

 求人票確認作業の受託を受けている中で、主に労働関係法令違反の多い項目を皆さまと共有したいと思います。

賃金関係(最低賃金、割増賃金など)

 最低賃金については、2022年に31円程度増額になり、2023年10月改正では、昨年以上の増額が予想される中、最低賃金違反の可能性がある企業が散見されました。今、企業の皆さまが作成されている求人票は、2024年4月1日入社の学生向けです。2023年最低賃金改正前までに賃金テーブルを見直し求人票を改正しなければ最低賃金違反になる可能性が高くなっています。企業における罰則規定です。

 割増賃金については、手当が多い企業において割増賃金の時給単価に各手当を算定に含めていない企業が散見されます。例えば、皆勤手当、資格手当、通信手当、テレワーク勤務手当など。割増賃金の算定に含む手当については、今一度、厚生労働省のHPで確認してみてください。割増賃金に含めなくてよい手当は限定列挙されています。

 時給単価の算出については、月平均所定労働時間数の誤りが散見されます。計算式に誤りがあり、過払いであれば会社の損となり、少なければ未払いが発生します。賃金債権時効が3年になった今、単純な計算ミスが大きく会社に損害を与えます。

 定額残業手当について、2023年3月10日の最高裁判決において有効要件が、(ア)定額残業制の採用につき従業員との間で合意が得られていること(個別合意の要件)、つまり従業員に不利益が被ること、例えば、組込式であれば時給単価が下がる、賞与や退職金への影響など丁寧に説明し個別合意を得ているか。(イ)労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の賃金に当たる部分とを判別することができること(明確区分性の要件)が示されています。定額残業手当額が多いために最低賃金を下回る可能性がある企業が多いのが現状です。また、組込式で制度化した場合、固定残業手当のみを安易に減額することはできないことなど考慮のうえ、制度の見直しをも必要になると思われます。定額残業制は適正に運用されていれば法違反にはなりませんが、仮に、労働時間の管理が杜撰(ずさん)、時給単価の間違い、割増賃金の基礎となる賃金の算定ミス、給与規程や労働条件通知書、給与明細に記載なしまたは記載不十分などによりその適用を受けているすべての従業員に対して未払いが発生する「もろ刃の剣」であることを改めて認識する必要があります。他社が導入しているからと安易に制度化した企業は十分な注意が必要です。

 次回の「求人票不受理への実務対応(2)」では、労働条件通知書、ハラスメントに関して掲載します。

「中小企業家しんぶん」 2023年 6月 15日号より