連載「わが社のSDGs」
くらしを学び、未来へつなぐ木育で地域をつくる
岸田木材(株) 代表取締役 岸田 毅氏(富山)

SDGs(持続可能な開発目標)は、「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現をめざす世界共通の目標です。2015年の国連サミットにおいてすべての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられました。2030年を達成年限とし、17の目標と169のターゲットから構成されています。

新連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第3回目は、岸田木材(株)(岸田毅代表取締役、富山同友会会員)の取り組みです。

 富山県で製材業を営む岸田木材(株)は創業1883年で今年140周年を迎えます。現在5代目となる岸田氏は、大学卒業後東京の商社に入社し、26歳の時に富山に戻り同社に入社しました。岸田家の祖先はもともと宮大工で、寺院で奉公活動を行っていました。その後、建設業をスタートさせるにあたり技術者を雇い、氷見漁港などの土木建設業を手がけていきました。

 明治に入ると氷見の杉は電柱・電信柱の材料として盛んに使用され、「ボカ杉林業」が発展していきました。ボカ杉林業とは杉を植え、その間で農作物を栽培するアグロ・フォレストリーの先駆けです(下草刈り作業がなくなり大事に育てることができます)。

 昭和30~50年代になると木材資源利用合理化方策が閣議決定され、土木建設に木材が利用されなくなり、日本中がロシア材を使用し、同社も100%外国産材を使用していました。しかし、国産材が使われなくなったことで地元の里山は荒れていきました。このような里山の惨状に気づいたことをきっかけに外国産材から国産材の利用へシフトしていき、現在は氷見の杉を余すことなく使用し、廃棄予定だった杉の皮をアップサイクルした新商品の天然染料インクなどの販売も行っています。

働く環境の改善

 岸田氏が同友会に入会したのは、21年前。中小企業診断士の方に、「経営理念をつくりなさい」と言われたことがきっかけでした。当時、経営理念はありましたが形骸化しており、自分の中に落とし込むために「経営指針をつくる会」に参加しました。そのころ新入社員が定着しないことに悩んでおり、手作りの教育プログラムではうまくいかず社員の多くが辞めていきました。そこで、いろはの「い」から教えてもらおうと同友会の社員研修会に社員と一緒に参加しました。同じカリキュラムを毎年受講することで中堅・若手社員が同友会で学び、自分の立ち位置や課題を発見でき、社長の思いや経営理念の共通理解が進みました。社内に理念が浸透していった結果、コミュニケーションの充実や外国語マニュアルの完備などが進み、現在は障害のある方や外国人人材を積極的に採用し、誰もが働きやすい環境をめざしています。

ひみ里山杉のブランド化

 ボカ杉は成長スピードが速く、真っすぐに育ち、しなやかなのが特徴で強度があるので電柱や船のマストなどに最適でした。このような氷見の杉を多くの方に使ってもらいたいという思いから、氷見の木材関連業の方たちと「ひみ里山杉活用協議会」を発足させ、ひみ里山杉のブランド化をスタートさせました。取り組みの中では、自分で選び伐採した木や思い入れのある土地の木を使って、家づくりや家具、フローリングを作ったりします。また、Himi Brico Laboという新規事業ではエンドユーザーとの接点を大切にし、端材やアウトレット品を販売しています。このような活動から、木材に節があるなどの欠点は売り手の判断基準なだけで、本来はお客さまが決めることだとわかりました。

木育プログラムの実施

 ゆりかごから墓場まで、ユーザーの顔が見えるような製品を作りたいという思いから、伐採体験や木育に取り組んでいます。伐採した木の年輪を子どもたちに数えてもらったり、葉をむしって香りを嗅いだりと『木の魅力』について知ってもらいます。伐採体験の後には製材所見学を行い、伐採した木で何ができるのかなどを知ってもらいます。また、「森の幼稚園」を開き、伐採した木で作ったブランコや、丸太の上を歩いて遊ぶなど本物に触れる体験を通して、子どもたちの感性が育つことを大切にしています。

 氷見市は木育宣言をしており、同社では中学生や高校生に地元の企業や魅力を知ってもらうために行われている「ふるさと教育」に協力しています。そのひとつである氷見高校との連携では「未来講座HIMI学」に関わっています。社員が氷見の林業について授業を行い、生徒には実際に山や製材所の見学をしてもらいます。この授業で製作した特別編集版「氷見市るるぶ」には同社の事業内容やひみ里山杉の特徴、氷見杉の歴史などが高校生のコメントを交えて紹介されています。

 これからも、岸田木材(株)は地域資源や地元の魅力を多くの人に伝え、持続可能な地球環境と誰もが健康で幸福な社会をめざしSDGsに取り組んでいきます。

会社概要

設立:1883年
従業員数:グループ合計38名(2023年4月現在)
事業内容:土木建築請負業、製造偉業
URL:https://kishidamokuzai.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2023年 6月 25日号より