【あっ!こんな会社あったんだ】経営姿勢の確立
経営初心者が同友会で得た学び
(有)ナイスケアサポート 代表取締役 井尻 祥子氏(奈良)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「経営姿勢の確立」をテーマに、井尻祥子氏((株)ナイスケアサポート代表取締役、奈良同友会会員)の実践を紹介します。

挫折からの転機

 (有)ナイスケアサポートは高齢者介護を行う介護事業所です。47歳で起業するまで看護師として勤務していた井尻祥子氏は、起業と同時に同友会に入会するも、1年間は幽霊会員の状態でした。

 年を重ねたときに行きたいと思えるデイサービスを自分たちの手でつくろうという理想に燃え起業しましたが、お金が回らず、自転車操業に陥ります。そんなとき、事務局から「ぜひ、井尻さんに聞いてほしい」と例会の誘いの電話があり、長野県仙仁温泉岩の湯の金井社長の報告を聞きます。働く環境を整え、顧客の旅行目的に合ったサービスを提供するといった改革により、バブル崩壊期にも関わらず事業が好調であると知り、「私がやりたいことと本質的に同じことをやっている。私が経営に関して無知だからうまくいかないんだ」と思い至り、同友会で学ぶことを決心しました。

同友会での学び

 井尻氏は同友会大学を受講し、社員パワーアップ研修会に社員とともに参加しました。研修会で若手社員に「経営理念を作りましょう」と背中を押され、事務局の支援を得て社員と一緒に経営理念を作成しました。

 また、労使見解を学び、なぜ会社は発展しなければならないのか疑問を持った井尻氏は、全国行事のグループ討論でその疑問を投げかけます。返ってきたのは、「あなたは社員の10年後、20年後のことを考えていますか?」という指摘でした。利益を出し、会社を発展させることが経営者の役割だと気づきましたが、見通しがまったく持てなかった当時、利益を出すイメージは持てませんでした。そのイメージが持てたのは、先輩会員から、リーマンショック時に仕事が7割減っても会社がつぶれなかったという話を聞いた時です。財務状態がよく、つぶれない会社を作らなければならないと考え、管理会議で予算到達度の報告・月次決算を開始しました。その結果、(有)ナイスケアサポートは利益が出せる会社となりました。

震災を経て

 「社員を解雇するな。われわれが応援するから、今後のことは相談し合おう」これは東日本大震災直後に会員に送られたメッセージです。これを見た井尻氏は、大変な状況でも、労使見解の精神を忘れない同友会に感動を覚え、支援物資を送る運動に参加しました。

 また、復興視察にも参加しました。その中の報告で、「大企業は動物。獲物がなくなればその場を離れて獲物を追う。中小企業は植物。大地に根を張り花を咲かせ、種子を拡散する」という言葉を聞き、自社が地域に根ざすことの重要性を知りました。コロナ感染拡大初期、この言葉を思い出し、利用者の心と体の機能維持・その家族の生活を守るために、事業所の営業を続けました。

 「経営者は緊急かつ重要なものを処理するのに手一杯の人が多いです。私も創業当時はそうでした。同友会での学びは緊急ではないですが重要なものです。経営指針がなくても明日困るわけではないですが、『幹』ができていないと、企業の発展に結びつきません。その時間をつくるためには、緊急かつ重要なものを任せられる社員の育成をしなければいけないと思います」と井尻氏は語ります。同友会の学びを実直に取り入れることで形作られてきた井尻氏の企業づくりは、まさに同友会理念の体現と言えます。

会社概要

設立:2002年
社員数:正社員27名、パート社員41名
事業内容:介護サービス業
URL:https://www.nicecare-support.com

「中小企業家しんぶん」 2023年 9月 15日号より