【知っておきたい採用のあれこれ】
同一労働同一賃金に対応した職務基準
(株)エム・ソフト 顧問・社会保険労務士 西 秀樹(東京)

「知っておきたい採用のあれこれ」。最終回は「同一労働同一賃金に対応した職務基準」です。

 2018年7月16日改正施行の労働施策総合推進法第3条では、基本的理念として「労働者は、職務の内容及び職務に必要な能力、経験その他の職務上必要な事項の内容が明らかにされ…」と規定しています。また、令和5年5月16日新しい資本主義実現会議において、三位一体の労働市場改革の指針(案)が示され、働き方は大きく変化しています。「キャリアは会社から与えられるもの」から「1人1人が自らのキャリア選択する」時代となりました。職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分でリスキリングを行え、職務を選択できる制度へ移行していくことが重要と基本的な考え方を示しています。

 今、GXやDXなどの新たな潮流は、必要とされるスキルや労働需要を大きく変化させつつあり、人生100年時代に入り就労期間が長期化(65歳までの就業確保措置(努力義務))していきます。日本は、年功序列型賃金制が戦後に形成され、職能中心の制度をとってきたがゆえに、職務(ジョブ)やこれに要求されるスキルの基準も不明確であるため、評価や賃金の客観性と透明性が十分に確保されておらず、個人がどう頑張ったら報いられるのか分かりにくいため他国に比べエンゲージメントが低く、スキルアップや学びの機会が十分に確保されていない状況にあります。加えて、人口減少による採用難に中小企業は直面しています。

 「同一労働同一賃金」は、労働者が同じ労働に対して同じ報酬を受けるべき原則を指す言葉であり、同じ仕事を同じ条件で行う労働者は、性別や国籍、雇用形態などに関係なく、同じ賃金を受けるべきだという考え方です。「職務の内容と責任の程度」は、労働者が行う仕事の内容やその仕事に伴う責任の重要な側面を指し、労働者の職務内容と責任の程度に基づいて、報酬や待遇などが決定されるべきとの考え方であり、職務の内容は、労働者が行う具体的な作業や任務、役割を指すことになります。中小企業においても2021年4月1日にパートタイム・有期法が適用となり、正規と非正規の間で不合理な格差を設けることができなくなり、「職務の内容と責任の程度」「配置の変更の範囲」を考慮した賃金を考えなければならなくなりました。

 企業において、人材活用は経営課題として重要な位置づけをなし、労働者にいかに生産性を上げ、モチベーションを高く維持しながら働いてもらうか、そのためには、現状の仕事の棚卸しを行い、その仕事に必要な能力や成果基準を明確にすることです。そうすることで、個々の労働者が成長と仕事のやりがいを実感することができ、将来の自己成長イメージ(キャリア)を考える機会にもなっていきます。会社は、働きやすい職場環境を形成し、エンゲージメントが高い組織を作り上げていくことこそ「選ばれる企業」になり、労働者が安心・安全に働くことができる組織づくりが実現し、その結果、定着率向上にもつながるという好循環が生まれるはずです。

 職務分析は手間がかかる作業ではありますが、労働者1人1人に自分が行っている課業・作業を書き出すことから始めてみてはいかがでしょうか。

「中小企業家しんぶん」 2023年 9月 15日号より