【特集】第22回障害者問題全国交流会in愛知【課題提起】
共に働き、共に生きることが、同友会のめざす人間尊重経営の原点
(株)浅井製作所代表取締役 浅井 順一氏

1.初めての障害者雇用

私は2003年に愛知同友会へ入会しましたが、その前年の2002年に実は1度障害者雇用にトライしたことがあります。きっかけは養護学校(現在は特別支援学校)の先生からの、実習受け入れの相談でした。内心では「障害者雇用なんて無理だよ」と思っていましたが、「まぁ実習くらいならいいかな…」と軽い気持ちで引き受け、先生のサポートもあったおかげで2週間の実習は終えることができました。ホッとしていると、先生から「彼は学校を卒業します。今回実習させてもらって、『浅井製作所さんの仕事を続けたい』と言っているのですが、何とか雇用してもらえませんか?」とお願いされました。「これは困ったな…」と正直思いましたが、軽いボランティア的考えもあり「実習もできたし、何とかなるか」と採用を決めました。

2.痛恨の失敗

現場の社員には「こういう子が来るよ」と、ある程度の説明をして雇用をスタートさせたのですが、最初はニコニコして元気に出勤してくれていた彼が、半月も経たないうちに暗い表情に変わり、1カ月経ったころからはポツポツと休むようになってしまいました。2カ月目に入ったころからは出勤ができなくなってしまい、ある日退職の申し出がありました。

後で社員に聞いてみると、プレス作業は危ないからと、仕事を彼にさせずに見学ばかりさせ、半ばお客さんとして接していたようです。当社の仕事がしたくて入社したのに、まるで戦力外のような扱いを受け、それが彼の自尊心を傷つけてしまったのです。当社の初めての障害者雇用は、まさに痛恨の大失敗でした。

3.社員に背中を押されて再チャレンジ

同友会入会から10年後の2013年、当社は再び障害者雇用に挑戦しました。きっかけは社員からの紹介です。最初は断りました。しかし、その紹介してくれた社員も引き下がりません。

あらかじめお願いする仕事が決まっていなければ、たとえ入社しても再びお客さん扱いです。そうなれば、前回の失敗の二の舞は避けられません。そこで、提案してくれた社員が目を付けたのが、製品を納品する際に利用する「通い箱」の整理でした。

当社では1日で1500箱から2000箱が動きますので、当然整理しなければなりません。その仕事をお願いしてはどうかというのです。それでも渋る私に「きっとやれるよ」と言い切る社員。「そこまで言うなら…」ということで渋々採用を決めました。それが、今も一緒に働いている4人の障害者の中の1人です。

4.人間は必ず成長する

最初はできないこともたくさんありましたが、根気よく仕事を任せていくと着実にできるようになっていくのです。空箱整理がみるみる進んでいきます。

すると、周りの社員からは「彼が来てくれてよかった」、「とっても助かる」という声がどんどん上がり、それを聞いた空箱整理をする彼は「役に立ててうれしい」と、どんどんやる気を出してくれるという好循環につながっていきました。そこからは「これもお願いできないか」、「あれもできるのでは」と次々に仕事の幅が広がっていきました。今では、当初の空箱整理だけでなく、空箱を生産ラインに投入する仕事や、完成した製品をピックアップして集荷場へ移動させる仕事も担ってくれており、当社にとって「いなくてはならない存在」です。人間は誰しもが必ず成長できる―。私はこの体験を通じて学びました。

5.障害者問題委員会? ボランティアでしょ?

そうこうしていると「障害者問題委員会(現・障害者自立応援委員会)に関わってくれないか?」と誘われました。2016年のことです。ところが、当時の私は新工場の竣工(しゅんこう)で頭がいっぱいで、「障害者問題委員会なんてムリ!」といった状況でした。

私が障害者問題委員会に関わるのをためらったのは、障害者問題委員会を「ボランティアをする委員会」と誤解していたからです。

「障害者問題委員会=ボランティア」という考えが根底から覆ったきっかけは、ある農園貸出事業の見学に行った際の委員会メンバーの憤る姿でした。

6.人間として働き、生きるとは何だ?

この農園貸出事業は、“障害者が水耕栽培で野菜を育てているビニールハウスごと”企業に貸し出すという事業で、私が聞いた借り手は一部上場企業でした。

「雇用される障害者は一部上場企業で働ける、給与ももらえるし、『借り手』企業も法定雇用率を満たせる。農園貸出事業所も潤う。よいことづくめではないか」と思っていた私は、なぜみんなが怒っているのか最初は分かりませんでしたが、話を聞く中で憤りの理由が理解できました。

ここで働く障害者は、ビニールハウスの中に囲われ、「借り手」とされる会社の社員と交流する日常も持たないのです。生産された野菜も市場に出ることはなく、多くが廃棄処分されるか、「借り手」の企業の社員に無料配布されるかです。健常者と障害者が共に働くことも、関わることもありません。そんな働き方を指して、委員会メンバーの人たちは怒っていたのです。まさに、「人間らしく働く」とは何か、ということです。「これが人間として働くことなのか? 人間として豊かな人生を送ることができるのか?」という疑問を強く抱いたのです。

7.「1社1人関わる・愛知モデル」が呼びかけるもの

同友会のめざす障害者雇用とは、障害者と健常者が分け隔てなく一緒に働き、その中で育ち合うことであり、委員会は経営者として責任ある経営姿勢を学び合う場だと私は考えています。

しかし障害者問題と聞くと、私たちの考え方とは違う印象を持たれていることがほとんどです。こうした状況を変えていくために、私たちが取りまとめたのが「1社1人関わる・愛知モデル」です。障害者雇用をめざすことも大切だけれども、1社が1人の障害者と関わることが、誰もが豊かな人生を実現できる企業と社会をめざす一歩になる、という考え方です。

8.波風の中、委員会で学んで

障害者問題委員会で学んで、一番変わったのは私自身の考え方です。たとえば、当社の障害を持った社員を思い浮かべる時に、無意識に抱く印象が変わりました。最初は「うちの会社の障害者」でした。次に「障害を持った社員」、今では「うちの会社の○○君」です。

命の重さはみんな等しいことは誰しもが分かっていると思いますが、私が委員会で学んで得たのは、その「当たり前のこと」への確信です。

人間は誰であっても必ず成長し、会社にとって不可欠な存在になることができます。懸命に共に働き、共に生きることが、同友会のめざす人間尊重経営の原点です。

9.同友会は学びと実践の会

経営者自らが自己変革する中で、命の尊さ、尊厳に目覚め、人間尊重経営を深め、実践し、そのことを通じて1社1社が社会を担うに足る存在になっていくことで社会全体の変革をめざすのが同友会です。徒党を組んで要求・要望をするのではなく、自覚的な経営者と企業を増やしていくことで社会をよりよく変えていくのが同友会運動の本筋です。当然、障害者問題全国交流会も社会正義を議論する場ではありません。

同友会は企業づくりを中軸に、学びと実践を互いの切磋琢磨(せっさたくま)、励まし合いと授(たす)け合いで積み重ねていく団体です。人間尊重経営の原点に立ち返り、大いに学び、議論し、そして「参加してよかった」と心から思える2日間をつくっていきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2023年 12月 15日号より