「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の概要

 急激な物価上昇に対して賃金の上昇が追いついていない中、持続的な構造的賃上げを実現するために、中小企業がその原資を確保できる取引環境の整備の一環として、今般、内閣官房及び公正取引委員会の連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が策定されました。概要を紹介します。

本指針の性格

 本指針は、労務費の転嫁に係る価格交渉について、発注者及び受注者それぞれが採るべき行動と求められる行動を12の行動指針として取りまとめています。また、それぞれの労務費の適切な転嫁に向けた取組事例や、受注者が用いている根拠資料や取組内容を取り上げています。

 発注者が本指針に記載の採るべき行動と求められる行動に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害する恐れがある場合には、公正取引委員会において独占禁止法及び下請代金法に基づき厳正に対処されます。

 他方、記載の全ての行動を適切に採っている場合には、取引条件の設定に当たり取引当事者間で十分に協議が行われたものと考えられ、通常は独占禁止法及び下請代金法上の問題は生じないと考えられます。

発注者として採るべき行動/求められる行動

〈行動(1)経営トップの関与〉

 (1)労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定すること、(2)経営トップが同方針又はその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと、(3)その後の取組状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップが更なる対応方針を示すこと。

〈行動(2)発注者から定期的な協議の場を設ける〉

 受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引き上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。特に長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されているような取引においては転嫁について協議が必要であることに留意が必要。

〈行動(3)説明を求める場合は公表資料の提出を求める〉

 労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠があるものとして尊重すること。

〈行動(4)サプライチェーン全体を意識した交渉を〉

 交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること。

〈行動(5)要請を理由とした不利益な取扱いをしない〉

 受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引き上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取り扱いをしないこと。

〈行動(6)必要に応じ価格転嫁の考え方を提案〉

 受注者からの申し入れの巧拙にかかわらず受注者と協議を行い、必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること。

受注者として採るべき行動/求められる行動

〈行動(1)交渉方法の情報収集〉

 労務費上昇分の価格転嫁の交渉の仕方について、国・地方公共団体の相談窓口、中小企業の支援機関(全国の商工会議所・商工会等)の相談窓口などに相談するなどして積極的に情報を収集して交渉に臨むこと。

〈行動(2)根拠資料は公表資料とする〉

 発注者との価格交渉において使用する労務費の上昇傾向を示す根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いること。

〈行動(3)交渉力が比較的優位なタイミングで交渉を〉

 労務費上昇分の価格転嫁の交渉は、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングなどの機会を活用して行うこと。

〈行動(4)受注者側から希望価格を提示〉

 発注者から価格を提示されるのを待たずに受注者側からも希望する価格を発注者に提示すること。発注者に提示する価格の設定においては、自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮すること。

 なお、発注者・受注者の双方の採るべき行動としては、(1)定期的なコミュニケーションを行うこと、(2)価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者と双方で保管することが求められます。

詳細については、下記のURLよりご覧ください。

https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka.html

「中小企業家しんぶん」 2024年 1月 15日号より