「人間尊重の経営」に「ビジネスと人権」の視点を

 仕入価格などの高騰、人件費のアップ、人手不足など、2023年は中小企業にとってさまざまな問題に直面した年でした。一方で、そのような中、各地域で同友会への期待が高まっています。同友会の長年の企業づくり、地域づくりの活動が中小企業の振興や地域の発展を考える上で重要であるという認識が、行政、教育機関、他団体などに広まってきています。

 同友会の活動が広く社会から共感を得ている大きな要因のひとつは、その根底に「人間尊重の経営」の考え方があるからです。同友会は1957年の創立以来、「人間尊重の経営」をめざす活動を展開してきました。このことは、「中小企業における労使関係の見解(労使見解)」(1975年発表)や、「21世紀型中小企業」(1993年発表)の中にも貫かれています。

 世界では今、ビジネスにおいて「人権尊重」を重視する流れが強くなっています。2011年に国連の人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で採択され、ビジネスを進める上での指針として大きな影響を与えています。

 日本を含む26カ国の政府が「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定。欧米諸国を中心に、企業に対し、情報開示や人権デューデリジェンス(人権侵害防止のための事前影響評価と対策)を義務付ける法制度が広がっています。さらに国連では「ビジネスと人権に関する条約」づくりに向けた論議が始まっています。

 「ビジネスと人権」を重視する流れは、経済のグローバル化と多国籍企業の影響力の増大によって途上国などで人権侵害が顕在化してきたことが契機となりました。さらには、世界的な格差の広がり、各地での戦争や紛争、気候変動や自然災害、性別・人種・宗教などよる差別、人工知能(AI)の急速な発達などにより、世界で人権に対する意識が高まってきていることが背景にあると考えられます。

 同友会が長年実践してきた「人間尊重の経営」と世界で広がりつつある「人権尊重」は重なる部分があります。「人間尊重の経営」に「ビジネスと人権」の視点を取り入れることでより強固なものにすることができます。そして、世界的に人権に対する意識が高まっている今、それは不可欠なものになってきているとも言えます。

 人権尊重の視点を取り入れた「人間尊重の経営」を進めていくことは、企業にとってさまざまな意義が考えられます。

 第1に、企業に対する社員・取引先・地域社会からの信頼を高め、企業の持続可能な成長を促進します。

第2に、世界的な共通言語である「指導原則」の仕組みを多くの中小企業が実践し対外的に発信することで、中小企業のイメージや社会的地位の向上につなげることができます。

 第3に、サプライチェーンの中で人権尊重の認識が広がることは、さまざまな不公正取引を見直す契機となり、中小企業にとって経営環境の改善につながります。

 同友会が長年実践してきた「人間尊重の経営」の先進性と普遍性に確信を持ち、「人間尊重の経営」に取り組んできた同友会会員企業こそ「人権尊重」の経営、人権デューデリジェンスの取り組みの先頭に立って進めていきましょう。

(KS)

「中小企業家しんぶん」 2024年 1月 15日号より