7月25日、香川にて中同協障害者問題委員会が開催され、社会福祉法人ラーフ理事長の毛利公一氏(香川同友会多様性委員会副委員長)が実践報告を行いました。報告要旨を紹介します。
私は2004年に海で事故に遭い、以降電動車いすで生活しています。「首から下が動かない」ではなく「首から上が自由に動く」という表現にこだわっており、事故を経験したことでそれまでの自分が狭い人生観だったと思うようになりました。障害のある方と接点はなく、社会的弱者と言われる人たちに目を向けたこともなかったため、福祉業界に出合うことができてむしろ幸せだと思っています。
私の周りにいる方たちは、少しずつできることを増やそうとみんな何かに挑戦していますので、障害者ではなく壁に挑む「挑壁者」というポジティブな言葉で発信しています。
社会福祉法人ラーフの成長~同友会と共に
福祉事業には「福祉の気持ち」と「経営力」のバランスが重要です。福祉の気持ちの下で利用者の目線に立った事業を行いながら、運営・管理をする経営力がなければ事業として続けられません。
2008年に、居宅介護と訪問介護を行うNPO法人ラーフを立ち上げました。その後は運よく事業を拡大してきましたが、あるとき旅行に行くと会社からの電話が鳴り止まず、「これはどうしたらいいですか?」とささいなことにもかかわらず社員が尋ねてきました。トップダウンを続けてきたことで、社員が自ら判断できない組織になっていたのです。
しっかりとした組織運営をするため2014年に同友会に入会し、理念経営の大切さを学びました。すぐに経営指針書の作成に取り掛かり、翌年に発表会を開催して半年後にラーフを社会福祉法人化、その後2018年に就労継続支援A型事業所リールを、20年にB型事業所ビームを設立し、現在の法人全体の売り上げは約2億円まで成長してきました。
A型事業所リールは、美容室やレストラン、産直、地域の方のためのカルチャースクールなどが一体となった複合施設の運営を行っています。美容室は誰もが安心して利用できるよう介護用品と一体となった洗面用品を整備し、美容室予約サイトで「車いす」「バリアフリー」などのキーワードで検索すると全国で1番目に出てきます。B型事業所は3カ所運営しており、農家の繁忙期に福祉施設の利用者が施設外就労を行う「農福連携」という取り組みに立ち上げ当初から参加して、人手不足の農家の力になっています。
理念を活用した魅力ある企業づくり
職員の能力を最大限発揮してもらうため、リフレッシュ休暇を導入しています。飲みに行く、映画やドライブに行く、ゲームをするなどどんな目的で休暇を利用しても構わず、ほぼすべての社員が利用しています。
また、多忙な社内の状況を整理するため、業務分担表を作成して業務の見える化をしています。それによって全体の業務が整理されて効率がよくなり、仕事が立て込んでしんどいという職員が少なくなりました。また、必要な方には何時に・誰が・何をやるのかが書かれた個別マニュアルも提供しています。
賃上げにも着手していますが、その際には経営理念を徹底活用しています。まずは理念を基にその年の全体の経営戦略を立て、それを基に部署ごとの戦略目標を作成します。さらに個人目標も設定してもらい、個人目標の達成が部署の目標達成につながり、各部署が目標を達成することで法人全体の目標が達成され、最終的に理念の実現に近づくというスキームです。そして、個人や部署の目標達成の度合いを給与に反映することで、社員のモチベーションにつなげています。
共生社会の実現に向けて
私たちは一般就労支援に力を入れており、A型事業所では今年と昨年で計4名、B型事業所から一般就労に移行する方も出てきています。また、2020年に(株)モーリスを設立し、福祉業界へのIT技術の導入支援や人材育成を行っています。企業と福祉施設をつなぎ、就労支援でレベルアップして一般就労移行をめざす取り組みで、今後日本全国に広げていきたいと考えています。
共生社会の実現のためには特に教育が重要です。子どものころから別々の環境で育つのではなく、インクルーシブ教育を進める必要があると思います。また、行政などが福祉施設に優先的に発注する「障害者優先調達推進法」がありますが、制度自体を知らない人もたくさんいます。共生社会づくりに向けて、こうした制度も活用してほしいと思います。
「中小企業家しんぶん」 2024年 10月 5日号より