7月15日付けの本欄では、「実効性のある『構造的な価格転嫁』政策を」のテーマで、公正取引を実現する政策強化の重要性などを強調しました。その後、政府でもそれに関連した議論が始まりました。
公正取引委員会と中小企業庁は、関係有識者で構成する企業取引研究会を設置しました。目的は「適切な価格転嫁を我が国の新たな商慣習としてサプライチェーン全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について、下請法を中心に検討すること」としています。
7月22日に第1回、9月19日に第2回が開催され、議論が行われています。そこからは日本の取引環境の現状や課題などが浮かび上がってきています。以下、主な点を紹介します。
まず、企業のマークアップ率の国際比較です。マークアップ率は、分母をコスト、分子を販売価格とする分数であり、製造コストの何倍の価格で販売できているかを見るものです。日本は1・33で世界平均(1・59)やアメリカ(1・78)、イギリス(1・68)などと比べて低い水準にあると指摘しています。
コスト別の転嫁率を中央値で見ると、原材料価格(80・0%)やエネルギーコスト(50・0%)に比べ、労務費(30・0%)は低く、労務費の転嫁は進んでいません。また、大企業と中小企業間では価格転嫁力の規模間格差が開きつつあると分析しています。
交渉プロセスの課題としては、直近5年間における価格交渉の有無について約8割の企業が「ある」と回答しています。しかし、そのうちの約3割の企業が実質的な協議が行われていないと回答しています。実質的な協議が行われないと感じる理由として、「話を聞く姿勢が見られない」「値決めの基準が示されない」「長期間待たされる、または必要以上に細かな説明を求められる」といった回答がそれぞれ20%以上を占めています。
下請代金の支払いに関しては、現金払いの割合は1966年の42・8%から2022年の89・2%と倍増し、逆に手形での支払いは57・2%から10・8%と大きく減少していることが示されています。
支払いサイトの問題では、海外諸国と比較すると、日本は回収サイト・支払サイトともに、ほとんどの業種において長い傾向にあります。回収サイト(売上債権回転期間)は76日で、アメリカの56日、イギリスの48日、ドイツの41日と比べると20~35日も長くなっています。
事業者から寄せられた声としては、「電気料金、副資材、運送費など全てが値上がりしているが、10年前の価格設定でなければ最上位企業の了解が得られないことを理由に、価格改定を認めてもらえていない」「取引先と打ち合わせ、製品の図面まで作成したが、実際に製造する直前で転注されてしまった。図面は承諾なしに他社に渡され、利用料は払われない。知財の契約は交わして無かった」「10年以上前に、取引先に手形取引から現金取引への変更を申し入れたところ、現金取引にする代わりに、下請代金の額を5%値引きしてくれないかと言われ、断った」など、いまだに不適切な取引が行われていることが具体的に示されています。
研究会は今後も継続的に開催されるとのことで、「実効性のある『構造的な価格転嫁』政策」が実施されることを期待して引き続き注目していきたいと思います。
(KS)
「中小企業家しんぶん」 2024年 10月 15日号より