8月8~9日、石川県にて2024年度全国事務局員「学びと成長」研修会が開催されました。第1講で登壇した石川同友会の橋本昌子氏((株)スパーテル代表取締役)の報告内容を掲載します。
私は薬剤師として20年以上勤務していましたが、「地域の健康のために」という志を持ち、起業しました。現在は、「てまりグループ」として4つの会社を経営、薬局を16、介護事業所を15運営しています。さらに今年は、デイサービスを2つ、有料老人ホームを1つオープンしました。売り上げは、創業以来少しずつ伸ばしており、2023年には26億7000万円、今年度は目標にしていた30億に届くかというところです。
創業の経緯
経営の経験はなく、最初は商工会議所の創業塾を受けました。それがきっかけで女性起業家交流会にもご縁ができて、そちらの先輩から「自分にはちょっとレベルが高いと思うような会にどんどん出たらいい」とアドバイスを受けました。その後、いろいろな会に参加し準備を進めましたが、起業するまでに5年ほどかかりました。
2008年、私と従業員3名で薬局をオープンしました。地域の人たちが健康について相談できるような店舗にしたいと思い、薬ができるまでの工程を学習し、調剤体験ができる子ども向けの「お薬教室」や、骨密度測定・体組成などの測定を行う「健康測定会」、地域の方々と毎回さまざまなテーマで情報交換を行う「井戸端会議」といった地域密着型の取り組みを行っています。
急拡大に伴う組織づくり
実は起業前に乳がんになったこともあって、自分がいなくても存続できる会社にしたいと最初から組織化を意識していました。そのためには店舗を増やすしかないと考え、3年でさらに6店舗オープンし、社員も20名くらいになりました。
しかし、よかれと思う取り組みに対しても社員から反発が起きるようになりました。また、組織づくりが後回しになり、指示命令系統が機能しなくなっていました。そこで、みんなが同じ方向を向いて進んでいくために、会社を支えてくれていた女性2名を幹部に登用し、その2名と共に基盤づくりプロジェクトを始めました。まずは、何のために経営しているのか、社長の役割は何かを見直し、続いて組織図をつくり、会議運営の進め方を決めました。
その後、福祉事業を始め組織がさらに大きくなったころ、てまりグループのバリューを共有し、それを地域に発信するための「てまりバリュープロジェクト」を立ち上げました。自社の5つのバリューを全員に共有し、それぞれに対して自分はどのレベルにいるのかを考えてもらうというものです。結果として、社員が自分たちの価値を認識し、自主的に職場の環境整備などに取り組んでくれるようになりました。
組織づくりは人づくりと密接に関わっています。多様な価値観を持つ社員を生かすためには、社長がぶれない判断基準を持つこと、将来の目標をみんなに伝えていくことが大事です。
アンケートを分類し、対策を立てる
4年目に社員アンケートを行ったのですが、「マニュアルがあっても徹底できない」「やらされ感がまん延している」などいろいろな意見が出て、これは何とかしなければと思いました。そこで、アンケートの結果を(1)間違った情報や知識に基づく意見、(2)個人の考えに基づく意見、(3)会社の課題として検討しなければならないことの3つに分類し、対策を立てました。
(1)の対策としては、社員研修をしっかり行うこと。そのために、階層別の研修制度を策定、会社のバリューや理念は方針として会社が決め、やり方は部署ごとに相談して決めるという仕組みをつくりました。他にも、社員に経営の感覚を身につけてもらう「社長塾」をスタートし、希望者に損益のことやリーダーの心構えを学んでもらっています。
アンケートには、「将来が不安」という声もあり、「この会社は10年後にこうなる」ということをしっかり見せる必要があると思いました。これは、(3)への対策に当たる取り組みです。希望者を募り、管理職と共に10年後どんな会社で働いていたいかをポストイットに全部書き出し、それが実現可能かどうかを調査して、中長期計画書をつくりました。
中長期計画や経営指針書を作成する時には、外部環境の分析が必要となりますが、中同協の定時総会議案集が非常に参考になると思います。
福祉事業への参入
今後も高齢化が進行していく日本においては、病床数が不足するため、病院ではなく、地域で介護・医療体制をつくっていかなければなりません。心穏やかに最期の時を過ごせるような場所が必要だと考え、2013年、約3億円を借り入れして、有料老人ホームをつくりました。はじめての介護事業だったこともあり、資金繰りは悪化。これを解決するために、まずは、自社の状態をきちんと把握すること。そして、経営を改善するための経営戦略会議を始めました。老人ホームの管理者を中心に毎月の予実管理を行い、仕事の割り振りなど従業員の仕事を見える化して効率化を図ることで、財政状況が改善され、今では、ほぼ満床で地域からの評価も得ています。
また、地域のコミュニティづくりにも力を入れています。小規模多機能事業所で、地域の人を招いたイベントを行ったり、畑をつくって利用者さんと一緒に収穫したり、近くの障害者施設の方と交流したりするほか、近くの学童の子どもたちも遊びに来てくれています。
「六方よし」をめざして
2023年は経営指針発表会で「六方よし」を掲げました。社員・お客さま・会社・世間・地球・未来の6つがすべてよくなるという意味で、1つ1つに指標を決めています。例えば、「社員よし」は従業員にアンケートに回答してもらい、結果を数値化して比較しています。
また、会社の方向性を共有するために、バージョンアップした10年計画を、経営指針発表会で共有するだけでなく、会議室や応接室に貼り出して日々意識するようにしています。
最後に
同友会の学びから正しい経営判断ができるようになり、その結果、会社も成長してきたと思っています。
同友会は、重要だけれども緊急ではないからおろそかになりがちなところをしっかりと勉強できる場で、早めに同友会で学んでいくことが結局は成長への近道だと今は考えています。
会社概要
設立:2007年
社員数:307名
事業内容:薬局の経営、医薬品、医薬部外品、医療用具、医療用品、医療機器、度量衝、健康器具及び衛生用品、健康食品の販売、介護施設、福祉事業の運営
URL:https://spatel.co.jp
「中小企業家しんぶん」 2024年 10月 15日号より