【あっこんな会社あったんだ】付加価値の向上 
「恩送り」で廃業の危機を乗り越え、1000年後も存続する会社へ 
(有)下仁田納豆 代表取締役 南都 隆道氏(群馬)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「付加価値の向上」をテーマに、南都隆道氏((有)下仁田納豆代表取締役、群馬同友会会員)の実践を紹介します。

 (有)下仁田納豆は1963年、南都氏の父が創業しました。3角形のパッケージが目印の「下仁田納豆」は、国産の大豆を使用し、地元メーカーで製造された経木(赤松でできた包装)に手作業で包んだこだわりの逸品です。

師との出会い

 南都氏が同社を継いだ当時は月商70万円ほど。自転車やバイクの荷台に木の箱をくくり付けて売る「引き売り」から卸売りへと業態を変えますが、100件営業をかけて買ってくれたのは2件だけ。そんな中、出会ったのが埼玉のある豆腐屋の社長でした。ある日、埼玉のスーパーに営業に行った際、豆腐売り場を見ると、大手企業の安価な豆腐が並ぶ中、300円の豆腐に目が留まりました。店員に聞くと、「これが一番売れている」と言うのです。帰り道、その豆腐屋さんを飛び込みで訪ねました。これまでの経緯を話すと、社長から「おたくはどんな納豆をつくっているんだ?」と聞かれます。「大豆問屋から一番安い大豆を買って、父の技術でおいしい納豆をつくっている」と答えると、「原材料にいいものを使わずにおいしいものができるはずがない。うちは北海道産の一番いい大豆を使っている。材料が高いから売値も高いが、値段以上の価値があるので買ってくれる。うちの大豆でつくってみろ」と言われました。

恩送りでつないだ絆

 もらった大豆でつくった納豆を社長に買ってもらう取引が1年ほど続いたある日、社長から「来月から持ってこなくていい」と言われます。目の前が真っ暗になった南都氏に、社長は「今の南都君は最低の下請け。親会社が取引停止したらつぶれるような会社ではだめだ。サラリーマンと同じで、経営者ではない。自分の足で取引先を探す努力しろ」と告げました。

 家族に相談すると、南都氏の母から「百貨店なら買ってくれるのでは?」という意見が出ました。ダメ元で足を運んでみるとなんと2つ返事で承諾。2軒目も「毎日納めてくれ」と即決でした。味も値段も知らないのになぜかと思っていると、担当者が「お付き合いのある豆腐屋から納豆が一緒に送られてきていた。その社長から『将来南都というやつが来るから、その時は取引してやってくれ』と頭を下げられた」と教えてくれました。

 社長にお礼に行くと「自分も親会社から取引が停止されたとき助けられたことがある。ものは順繰り。『恩返し』ではなく『恩送り』で、次の世代を助けてやってほしい」と言われました。

地域住民・事業者との交流

 南都氏の妻の由美さんは、同社を通じて地域住民や食に携わる事業者をつなぐ「スマイルマルシェ」やワークショップを行っています。

 「スマイルマルシェ」の始まりは、近所のアジサイ農家を応援するために納豆工場横のショップにアジサイを置いたこと。SNSなどで紹介していくうちにいくつかの店舗が集まってきました。現在は本社横の駐車場で年2回開催しており、前回は36店舗が出店、約2000人が訪れました。

 また、3カ月に1回実施しているワークショップは、地域で学び、コミュニケーションをとる場となっています。そこでは南都氏が全国を営業することで構築したネットワークを生かし、さまざまな食材のプロに来てもらい話をしてもらっています。

1000年先を見据える

 「人件費は経費ではなく、未来への投資」と考え、3年前から新卒採用を開始。20代5人を採用したことで工場内が明るくなりました。「うちは1000年で1兆円の売り上げをあげる企業、一部上場企業よりも長く続いていくと面接で話すと学生の目が変わる」と南都氏は語ります。はるか先の未来を見据えつつ、地域に根を下ろして発展し続ける下仁田納豆の歩みは続きます。

会社概要

創業:1963年
社員数:25名
事業内容:納豆の製造及び販売
URL:https://www.shimonita-natto.jp/

「中小企業家しんぶん」 2024年 11月 15日号より