【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
モノづくりを楽しむ精神(前編) 
(株)ヒラマツ 代表取締役社長 平松 洋一郎氏(三重)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)ヒラマツ(平松洋一郎代表取締役社長、三重同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

 (株)ヒラマツ(平松洋一郎代表取締役社長、三重県津市、従業員112人)の事業には3つの柱があります。

大型車両洗車機

 ヒラマツの創業者で平松社長の祖父である平松正氏は、戦前富山市の「不二越」の設計部に勤務するエンジニアでした。戦後、生まれ故郷の津市に帰り、1951年に「平松鉄工所」を設立、大手電機メーカーから部品製作を受注していましたが、アメリカに行く機会があったときに目にし、これなら自分でも作れると思った自動洗車機の開発にとりかかりました。1964年、移動式自動車洗車機を考案、1本の大きなブラシで車の側面を洗浄するもので、66年にバス、トラックなどの車両を洗浄できるよう大型化し、以降、50年以上に渡り改良を重ね、現在、バス会社、トラック運送事業者など約2000社の顧客が利用しています。この1本ブラシ洗車機のほか、門型車両洗車機もそろえています。1本ブラシ洗車機にはかつてライバルメーカーもありましたが、現在ではヒラマツがほぼ独占しています。

 ヒラマツの洗車機はドライバーの労働軽減を目的にバス、トラック会社向けに特化し、かつ各ユーザーの使用環境だけに合う専用機のため安売り競争に巻き込まれません。また、製品は部品点数が少ない溶接構造のため高い耐久性があります。溶接技術は同社の大型鋼構造物部門に蓄積されています。溶接工程を含め、部品製作・組み立て・検査まで社内で一貫管理していることも高品質につながっています。中小企業は製品を開発しても販売に苦労することが多いですが、生産から販売までの一貫体制も確立しました。

大型鋼構造物

 橋梁(きょうりょう)などに用いられる大型鋼構造物を製造しています。主な受注先はJFEエンジニアリング(日本鋼管の後身)などの大手企業です。創業者は1969年の日本鋼管津製作所竣工に合わせ、現在本社が置かれている雲出工場を開設、津製作所で必要な部品作りを始めました。当初は、造船部品が多かったですが、津製作所の生産物の変化に沿って造船→水門→橋梁部品と重点を移行させてきました。

 大手と取引しても資本や天下りを受け入れたことはなく、自社を協力企業と位置づけても下請企業と思ったことはありません。洗車機部門を持ち、大手に全面依存の必要がないことと次のような優れた加工技術が当社の独立企業としての地位を実現しています。

 橋梁部品が道路により仕様がすべて異なるように、製品は多品種少量で毎回設計図が異なります。ヒラマツにはこの多様なニーズに対応できる熟練した職人技術が備わっています。例えば、同社には三重県溶接技術競技会でトップになった人材が4人もいます。大型クレーン、高性能の最新機械設備をはじめ多様な設備も備えられています。外注していた塗装工程を2020年に内製化し、切断、製缶、機械加工、塗装まで一貫生産のため、スピーディーな対応と確実な品質管理ができることも強みです。

 平松社長によると、大手との価格交渉は容易ではないが、あらゆるものが値上がりする中、最近では実質的な値上げができてきたとのことです。「祖父と唯一考え方が違うのは、祖父はよいものを安く!でしたが、私はよいものは、適正な価格で!働いている社員たちの作った付加価値を安売りしたくない」と言います。

 洗車機部門が特定分野に特化した専門製品メーカーであるのに対し、鋼構造物部門は自社製品は持たないが、優れた加工技術自体を“自社製品”とする、専門加工業と言えます。

福祉事業

 以上の製造部門とは別地域に、福祉事業部門として「虹の夢 津」を設置しています(2015年開業)。同所の特徴は、全国的にも数少ない「特定施設入居者生活介護事業所」と「就労継続支援A型事業所」(事業所名「トモニス」)を併設していること。前者はいわゆる老人ホームで、後者は障害のある人へ働く機会を提供するとともにスキルの向上をサポートするものです。そのA型事業所では、事業所と利用者は雇用契約を結ぶため、利用者はサポートを受けながら、最低賃金が保障された給与をもらうことができます。「虹の夢 津」では、「トモニス」の利用者が介護事業所で清掃や洗濯、シーツ交換などの雑務や、簡単な介護業務の補助を行っています。介護スタッフは介護に専念できる一方、障害のある方は、見守られながら働け、やりがいを得ることができます。生活介護と就労支援施設の併設は全国的にも数少なく、ヒラマツは福祉事業でも唯一性の強い専門企業に向かっています。

 福祉事業をなぜ行うことになったのか。創業者の正氏はがんで入退院を繰り返していたことがありましたが、大好きな設計を入院中も行い、こっそり抜け出して工場で試作していました。見つかると、「死んでもいいからやりたいことをやりたい」と強く言い、老人がやりたいことができるような場を作りたいと言い出しました。後年、別地域にあった洗車機工場の本社敷地への移転で、跡地活用が課題になったことでこの構想が復活しました。同社の仕事は住民に知られていないため、地元の人々が必要としている仕事をやりたいとの平松社長の思いもありました。

売り上げ構成

 3部門の23年度の年商は洗車機部門3億5000万円(従業員20人)、鋼構造物部門10億円(60人)、福祉事業部門2億5000万円(30人)です。年商計は16億円で、平松社長が就任した2013年から倍増しました。

(後編に続く)

会社概要

設立:1951年
社員数:112人
事業内容:大型車輌用洗浄機械および車輌下部洗浄機械の開発・製造販売、各種水門・橋梁部品等製造
URL:https://hiramaz.com/

「中小企業家しんぶん」 2024年 12月 15日号より