【2025年の展望】
新たな時代を創造する企業へ 
中同協企業環境研究センター座長 植田浩史(慶応義塾大学経済学部教授)

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。新しい年を迎えるにあたって、中小企業経営にとって2025年とはどのような年なのか、考えてみます。

2つの節目

2025年は2つの点で節目の年になります。1つは、戦後80年です。明治維新から第2次大戦終戦までが約80年間、それとほぼ同じ時間を1度も戦争を起こすことなく過ごせたことは、大事なことだと思います。平和を当たり前とする幸せを、戦禍に苦しむ同時代の人たちがいる今だからこそ大切にし、世界でも実現させていくことが肝要であると感じています。

もう1つが、阪神・淡路大震災から30年目を迎えることです。阪神・淡路大震災以降、日本は何度も大きな地震に見舞われ、多くの人が亡くなり、被害を受けました。1年前の能登半島地震の傷跡は今も残り、復旧・復興は現在でも大きな課題です。その一方で、地震に強い地域や企業づくり、復旧・復興を進める制度や仕組みづくりは十分とは言えず、真摯(しんし)に国民的、地域的課題として、それぞれの地域の中小企業を含めて考えていく必要があります。同友会で議論されているエネルギーの地産地消、域内経済循環などについてはさらに重視されるべき課題です。

第2次トランプ政権

さて、2025年の世界と日本はどういった方向に動いていくのでしょうか。1つは、今年の1月にスタートする第2次トランプ政権(トランプ2・0)とその影響です。トランプ氏の発言は世界を騒がせているものの、実際にどこまで実行するのかは未知数です。とはいえ、輸入関税率の引き上げが実行され、世界経済に影響を与え、日本経済にも直接的にはもちろん、間接的にも影響していくことは確実だと思われます。国内の輸出関連産業の動向には注視する必要があります。

トランプ2・0では、パリ協定からの離脱が想定されており、世界的な気候変動政策に影響を及ぼすと考えられています。また、トランプ2・0の外交・防衛政策は、長期化しているウクライナ戦争・ガザ戦争、東アジア情勢などにも影響を及ぼすとともに、世界の2大経済大国である米中間の関係悪化も懸念されるなど、1月就任以降の動きについては多面的に見ていかなければなりません。

激動の時代 ホンダ・日産の経営統合

昨年末、ホンダと日産が経営統合に動き出すというビッグニュースが飛び込みました。背景には、日産の経営悪化や鴻海(ホンハイ)の買収への危機感などの問題もありますが、根底にあるのは世界的に進むEV化、自動運転化とグローバル競争関係の変化であり、両者の強みを生かし、巨額投資に対応していくための経営統合であると見られています。

今後、経営統合が具体的にどのように進んでいくのかは、まだ分からないことが多いものの、日本の自動車産業の歴史にとって最も大きな変化の1つになる可能性は大きいと考えられます。現在は、こうした大きな変化がいつ起きてもおかしくない、激動の時代なのです。

2025年の日本経済見通しと留意点

年末の『週刊エコノミスト』(12月24日号)では、2025年の日本経済予測を特集しています。エコノミストによる経済予測が示されており、数値については例年のように幅があり、実質経済成長率の予測は0・3~1・3%、年末の長期金利は0・8~1・6%、年末のドル・円相場は140~155円などとなっています。

一方、共通した見方としては、(1)トランプ2・0の世界的影響による外需の低迷、(2)日銀の金利利上げの実施と金利上昇(ただし回数と上昇幅はいろいろ)、(3)インフレ率の緩和、などがあります。それでも数字に幅があるのは、内需、特に個人消費、さらにその前提となる2025年の賃上げの動向、トランプ2・0によるアメリカ経済や中国経済の動向、日本と海外との金利差と為替の推移などに評価が分かれているからです。トランプ2・0の中身次第によって今年の日本経済の動向に違いが生じていくことには留意する必要があります。

中小企業に関わる今年の留意点として2点指摘しておきます。1つは、今年も大きな話題になるであろう賃上げです。昨年多くの中小企業でも人手不足、物価上昇から賃上げが実施されてきましたが、こうした賃上げを販売価格上昇、生産性上昇、「稼ぐ力」強化によって吸収できているところと、経営の圧迫要因になっているところと2分化されていると言われています。賃上げと経営力強化を好循環で実現していくことが、中小企業経営者に求められています。

もう1つが、倒産件数が増加傾向にあることです。コロナ禍でのゼロゼロ融資の返済、経営者の高齢化と後継者難、人手不足、物価高などが背景にあると言われています。経済状況の変化がさらに倒産を増加させる可能性もあり、今後も看過できない問題です。経営上の問題が生じた場合、早く対応していくこと、周囲の状況も注視していくことが大事になっています。

激動の時代にこそ「21世紀型中小企業づくり」

こうした激変の時代にこそ、1993年中同協第25回定時総会で発表された「21世紀型中小企業」に立ち返った企業づくりの方向性が改めて求められています。

激変の時代には、「こうすれば成功する」というマニュアルはありません。企業の継続と発展のために、自社の存在意義を問い直し、社員とどう乗り越えるか、周囲の企業とどう連携していくか可能性を探り対応していくことが大事です。同友会には、こうした努力の積み重ねと成功の事例が数多く蓄積されていますし、今も新しい教訓が積み上げられています。社員と共に学び成長する企業づくりによって、激変の時代を乗り越え、新しい中小企業の時代を創造していく企業が同友会の中から次々と生まれていくことを祈念しています。

「中小企業家しんぶん」 2025年 1月 15日号より