11月14~15日、第8回人を生かす経営全国交流会が長崎で開催され、40同友会と中同協から451名が参加しました。今回の特集では、開催地あいさつと主催者あいさつ、1日目のまとめ、問題提起の内容を紹介します。
開催地あいさつ
長崎同友会代表理事 中村こずえ氏
本日は長崎同友会52歳の誕生日です。このよき日に全国の皆さまをお迎えできたことを本当にうれしく思います。若者の人口流出、最低賃金の上昇など、中小企業を取り巻く経営環境はどんどん厳しくなっているような気がしますが、だからと言って経営者は歩みを止めることはできません。こうした経営環境の中でも、経営者は覚悟を持って自社経営を維持・発展させる責任があり、今回の交流会にその大きな学びとヒントがあると思います。中同協は、さまざまな全国行事を各地で開催していますが、この人を生かす経営全国交流会での学びが経営の基本であり、経営者が最も重きを置いて大事にしなければいけない「人」にフォーカスを当てた貴重な交流会です。
準備をしてきたこの2年間は本当にあっという間でした。中同協の役員の皆さん、4委員会に関わる皆さん、そして宇土実行委員長をはじめ長崎同友会の実行委員会の皆さん、事務局の皆さんのお力があってこの日を迎えられました。会を代表してお礼を申し上げます。今日、明日とたくさん学びましょう。
主催者あいさつ
中同協会長 広浜泰久氏
宇土実行委員長をはじめ長崎同友会のみなさま、かくも立派な形で開催していただきありがとうございます。最近、同友会の先見性と普遍性が素晴らしいとよく言われますが、その核となる部分は人を生かす経営であると確信を持ちつつあります。各地でいろいろな運動が盛り上がりを見せ、地域との関わりも深くなり、それぞれの運動を有機的に接合したすごい事例もたくさん出ています。そのすべての運動の根底に人を生かす経営が流れています。
人を生かす経営とは何か、先人たちがいろいろなキーワードを与えてくれています。赤石さん(中同協元会長)は、自主・民主・連帯の精神の深い意味として「生きる・暮らしを守る・人間らしく生きる」を提起されました。第1回人を生かす経営全国交流会では、大田堯先生が生命の特徴として、1人1人違うから素晴らしく、命は自ら変わる力があり、他と関わることで成長する、そしてそれが自主・民主・連帯の精神とつながっているという話をされました。
4委員会それぞれの運動が高い到達点に来ており、それを学べるのがこの交流会です。皆さんと共に充実した学びをし、企業づくりや地域づくり、同友会づくりをはじめ、自分づくりにもつなげることを誓い合い、主催者代表のあいさつといたします。
1日目のまとめ
中同協経営労働副委員長 林哲也氏
広浜会長から、根底に人を生かす経営があるからこそ、同友会の先進性と普遍性が発揮されるとありました。また、加藤副会長の問題提起での、本気で求人と教育に取り組む必要性と、今ある事業はいつかはなくなるという指摘は刺さりました。4委員会が励まし合い、同友会全体で力を合わせて、よりよい社会づくりに向けた運動に全力を挙げているかが問われています。
パネルディスカッションでは、自社の存在意義を明らかにし、事業の意味づけをすることの重要性を確認しました。人口減少に歯止めをかける運動も真剣に考えるべきですが、問題は「誰かがやるだろう」という無関心が障害となっています。みんなで取り組めばできるという自信を育てられているか、胸に手を当てて考える必要があります。また、「共育と賃上げ」というキーワードで働きがいのある企業づくりについても議論しました。
働きやすい企業にするためには商品づくりがカギで、売り上げをしっかり立てる必要があるとの報告もあり、数字に強い経営者になることの重要性も確認しました。政府は、2020年代に最低賃金の全国平均を1500円に引き上げる目標を掲げています。世界的に日本の最低賃金は低く、賃上げできる企業づくりは避けられない課題です。この課題に対応するためには、経営指針書に自社の社内最低賃金の目標を明確に掲げ、計画を作り社員と共に実践すること、つまり経営指針に基づく企業経営が大切です。
同友会の真価を発揮するために4委員会が力を合わせ、地域を変える運動を推進し、地域から必要とされる活動を進める必要があります。交流会での学びをしっかりと深め、地元に持ち帰り、運動を進めていきましょう。
問題提起
企業経営を通して、よりよい社会を実現するために
エイベックス(株) 代表取締役会長 加藤明彦氏(人を生かす経営推進協議会代表/愛知同友会相談役)
新しいステージにおける同友会運動の心構え
同友会運動は「3つの目的」を掲げ、「自主・民主・連帯の精神」に立ち、「国民や地域と共に歩む」姿勢を貫き、その創造的実践によって時代とともに発展してきました。そして、労使見解で提唱されている人間尊重経営とは、今の時代ではダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)と読み替えることができます。労使見解を今どのように捉えるのかを考え、われわれの後継者につなげていくことが大事です。
同友会が他団体と違うのは、人間を尊重する企業づくりそのものだと思っています。同友会運動は人を生かす経営をして、人が生きる社会をつくっていく、非常に壮大な運動です。われわれ経営者は企業経営を通して、よりよい社会を実現する運動を推進する役割があるのです。少子化の今、中小企業はなかなか採用ができません。しかし、人間を尊重する企業づくりで他社と差別化すれば、必要な人数を雇用できると私は思います。
今年9月に行われた第52回青年経営者全国交流会で報告したのですが、座長の宇都さんがよいまとめをしてくれたので、紹介します。まずは、「社員の生死を左右する影響力を持っているのは経営者だという自覚を持ち、まず経営姿勢を確立し、生きざまを学び実践していく」。第2に、「『労使見解』の実践には自主・民主・連帯の精神が欠かせない」「違いを認め、あてにしあてにされる関係を持ち、社員が『会社にとってかけがえのない存在だ』と思うことで社員に主体性が生まれる」「経営指針の全社的実践を繰り返し、時間をかけて社風をつくり、人が育つ環境をつくることが経営者の役割である」。そして第3に、「われわれ青年経営者は歴史に学び、未来を切り拓いていく役割がある」。これらがわれわれの仕事です。
同友会の本質は、『労使見解』にあり
労使見解が世に出るまでの歴史的経緯を簡単に説明します。1947年、同友会の前身となる全日本中小工業協議会(全中協)が結成。10年後、日本中小企業政治連盟が台頭し、「中小企業団体組織法」の制定運動を始めますが、全中協の自主性を堅持した人たちはこの運動に賛同せず、日本中小企業家同友会(現東京同友会)を創立するに至ります。「中小企業の自主的な努力と団結の力で中小企業の自覚を高め、中小企業を守り、日本経済の自主的で平和的な発展をめざす」。自主・自立の精神と民主的運営が徹底された団体であるというのが、われわれの原点です。
73年に「3つの目的」である「よい会社・よい経営者・よい経営環境」ができますが、「経営を担う経営者自らの能力の向上なくして中小企業の発展を望むことはできない」として、よい経営者になろうと掲げているのが同友会の非常に大きな特徴です。そして75年、それらがまとめられて労使見解が発表され、来年で50年を迎えることになります。
人間尊重経営の基本となる自主・民主・連帯の精神
われわれがめざすべき姿は、徹底的に「真の人間尊重の経営」を行うことに尽きます。それが「自主・民主・連帯の精神」とどう結びつくかがポイントです。『生きる・くらしを守る・人間らしく生きる』(赤石義博著)からは、人類の歩みを見ると、民主・連帯・自主の順になっていると読み取れます。私が「自主・民主・連帯の精神」を取り入れて社風をつくっていくときに、最初は社員の活動を自主的に改善していくことを狙っていたのですが、なかなかうまくいきませんでした。そこで民主の考え方から始めました。生命の尊厳性を考えると、命の重さに差はありません。これを企業内で置き換えると、1人1人の違いを認め、長けている個性を生かすということです。1人1人が潜在能力を発揮すると自主につながります。まずは社員同士違いを認める風土が会社にあることが大事です。その次が連帯。それぞれを認められるようになると、自分の役割、相手の役割を理解するようになります。それがまとまって初めて全社一丸体制となるのです。それができて初めて自主につながります。
「21世紀型企業づくり」は、市場創造と人材育成
次に大事なのがビジョンで、ビジョンを市場創造と人材育成という切り口で捉えたのが「21世紀型企業づくり」です。もし皆さんの会社で売り上げが停滞しているならば、過去の延長線上の仕事をやっていないか振り返った方がいいのではないかと思います。自社の過去を振り返っても、父親が創業したときの仕事は今ゼロです。今ある仕事は必ずなくなります。だからこそ事業領域を明確にすることが大事です。
そして、未来が見えるビジョンをつくらないとそもそも新卒採用ができません。学生は、入社したらどのように役職が上がっていくのか? 収入はいくらなのか? 何を努力すればいいのか? そういうことを知りたいのです。今いる社員は必ずいなくなります。会社のビジョンを描きながら計画的に採用することが必要です。
『労使見解』に基づく三位一体活動を中心に
経営指針・採用・共育を三位一体として社内で推進していかなければなりません。採用では経営指針のビジョンを語り、共育では方針・計画に基づく目的と役割をしっかり果たして会社をブランド化していくことが大事です。そして、そのベースは真の人間尊重です。障害のあるなしに関わらず一緒に働ける、社員が感性豊かな人間として育っていく、そういう社風になれば、あらためて働き方改革をする必要はありません。
まとめ
今後、ますます激しくなる人手不足が予測される時代だからこそ、働く中で成長し、人生の豊かさを実感するための共育を行い、働きやすい働きがいのある企業づくり、すなわち「人を生かす経営」を進めていかなければなりません。
各委員会では、労使見解をさまざまな角度から深く理解し、実践につなげる取り組みをしています。これからは、委員会同士が連携して、企業実践を展開してほしいと思っています。今まさに同友会運動が、一丁目一番地のど真ん中に来ています。その自信を持って活動を進めていきましょう。
「中小企業家しんぶん」 2025年 1月 15日号より