ここ数年、「ステルス増税」と言われる増税が続いています。防衛増税、再エネ賦課金、森林環境税、子ども・子育て支援金などがその例です。これらの増税や負担増は見えにくく、実感しにくい傾向がありますが、実際には家計にかなりの負担となっており、可処分所得を減少させているのは事実です。
2024年9月、江口允崇氏(駒澤大学)と安田洋祐氏(大阪大学)は、「ステルス増税の見える化-消費税率換算で測る経済的インパクト」をテーマとした研究を発表しています。見えにくい増税を見やすい消費税率ベースに換算し、年収区分ごとに消費税率で何%の増税にあたるかを試算。防衛増税、再エネ賦課金、森林環境税、子ども・子育て支援金の4項目について、消費税率に換算した負担率を測定しています。
再エネ賦課金は、1.4円/キロワット時(2023年)から3.49円/キロワット時(2024年)に引き上げられました。森林環境税は2024年度から1人当たり年間1,000円の負担。子ども子育て支援金は、2026年から公的医療保険制度の加入者から、保険の種類や所得に応じて徴収される予定です。防衛増税については、所得税額に2.1%上乗せするかたちで復興特別所得税の徴収を2037年まで延長。また、たばこ税も防衛増税の一環として、2026年4月から加熱式たばこを1箱当たり数十円程度引き上げ、さらに加熱式・紙巻きともに段階的に1箱30円程度引き上げられます。そのほかにも、「106万円の壁」の撤廃、退職金税制の見直し、介護保険料や後期高齢者医療保険料の増額など、「ステルス増税」が次々と検討、実施されています。
江口氏、安田氏の試算では、標準年収世帯(400-600万円)の場合、男性では消費税率換算で1.3%程度(図)、女性では1%程度の増税に相当する負担となっていることが分かります。同研究では喫煙率にも着目し、喫煙者におけるステルス増税も消費税率に換算しています。低所得世帯ほど平均消費額は低く、喫煙率が高い傾向があり、防衛増税に伴うたばこ税増税の影響が低所得者ほど重くのしかかっています。低所得者世帯(年収200万円未満)は、紙巻きたばこの消費者世帯では約2.4%、加熱式たばこの消費者世帯では約4%の増税に相当し、これは過去最大の消費増税(3%)を上回る数値となっています。
両氏は、消費税率換算によって明らかになった「ステルス増税」の負担には逆進性が強く見られ、中間層や低所得層に対する負担感が大きいことが明らかになったと指摘しています。この逆進性の主要因が防衛増税です。所得や社会階層と密接に結びつくたばこへの増税が大きく寄与し、防衛費という極めて公共性が高い財源を低所得の喫煙者という一部の国民に頼ることに、税の基本原則の1つである応能負担にも応益負担にも違反すると結論づけています。このような「ステルス税制」について、今後の政策に対する提言が求められます。さらに、トランプ関税ショックによるスタグフレーションも懸念される中、減税や社会保険料の減免などの対策と併せて要望していくことが必要だと感じます。

「中小企業家しんぶん」 2025年 4月 25日号より