「コストパフォーマンス(費用対効果)」の略語である「コスパ」は、よく使われる言葉です。調べてみると、1970年代の自動車業界で使用されていた「価格性能比」という表現を、自動車雑誌がコストパフォーマンスと呼んだのが始まりという説がありました。バブルの崩壊、不景気の長期化、デフレなど、いわゆる「失われた30年」という経済状況の中で、コストを削減しながらも効果(パフォーマンス)を上げ、効率的に利益を上げるという考えが定着していったと言います。
「安い・早い・うまい」ファストフードや大盛り店、ユニクロなどのファストファッションが流行し、低価格ながら高品質な商品が支持を受けました。デフレ下の日本経済の中で、若者や子ども、女性層を中心に「コスパ」という考え方は広く浸透していきました。
「コスパ」から派生し、2022年ごろから広く普及してきた考え方が「タイムパフォーマンス(時間対効果)」を重視する「タイパ」です。Z世代を中心に急速に浸透しました。Z世代とは1995年~2010年ごろまでに出生した世代で、2025年現在、15~30歳の中高生・大学生・若手社員が該当します。リーマンショックや東日本大震災、感染症の流行など経済社会に大きな影響があった出来事を経験しつつ、スマホやタブレットを活用し、インターネットやSNSとともに成長してきた世代。このZ世代は、テレビや新聞などのいわゆるオールドメディアから離れ、ネット・SNSやサブスクリプションサービスへとシフトしてきている世代です。タイパは短時間でいかに効果や満足度を得るかを重視しますので、動画の倍速視聴、ネタバレ消費、ネット通販などオンラインやアプリで事足ります。食事についても、料理する時間がもったいないと感じ、冷凍食品・完全栄養食などを好むそうです。過程やプロセスを省き、結論や結果を早く求める傾向と言えるかもしれません。
この「コスパ」「タイパ」に続いて、「スぺパ」という言葉が出てきました。「スペースパフォーマンス(空間対効果)」という限られた空間を有効に活用する考え方が普及しつつあります。コロナ禍でテレワークが広まり、多様な働き方が広がりを見せる中で、オフィスの有効活用や家の中のワークスペースの確保を通じて、プライベートでもビジネスでも空間の効果的な利活用が重要と認識されるようになりました。
物価高やインフレ傾向の中で、不動産価格も上昇しており、今までのような広い家や空間をぜいたくに使うという価値観が薄れつつあります。その一方、極力物を置かない、持たないミニマリスト的な考え方や、1つで何役もこなす家電やインテリア、不必要なアイテムは手放すなどの傾向が見られるようになりました。
さらに最近では「ウェルパ」という言葉も登場。「ウェルビーイングパフォーマンス」の略で、自分自身や周りの環境を含めて「居心地のよい状態」を効率よく求めることを表しています。ウェルビーイングとは「心身が満たされ、生き生きと健康で過ごせる状態」を指しますが、コスト・タイム・スペースなども包含して、自分の「いい状態」を優先する効率を求めるという意味合いです。
「効率(パフォーマンス)」を求めることは悪いことではありません。しかし、「急がば回れ」「急いてはことを仕損じる」「失敗は成功のもと」などのことわざにもあるように、効率だけでなく、失敗の教訓や、プロセス(過程)での気づきなども重要と感じるこの頃です。
(I)
「中小企業家しんぶん」 2025年 5月 15日号より