トランプ関税の影響は、トランプ氏の意向で変動するので予測が難しく、交渉次第の側面があります。貿易統計に基づく直接的および間接的な影響を最大限に見積もると、日銀が予測したGDP0.6%減では済まない可能性があります。
直接的な影響としては、自動車(乗用車)に対する関税が現行の2.5%から25%追加され27.5%になることや、自動車部品、鉄鋼、アルミへの25%の関税がまず挙げられます。特に自動車については、米国が国外で建造された自動車船に対し、1隻につき150ドル(約2万1,000円)の入港料を10月14日から徴収すると発表しており(世界に約850隻ある自動車船のうち日本は約320隻を保有)、自動車輸出の大幅な減少が見込まれます。2025年に完全にゼロになることはないにしても、米国内生産車との価格差が広がり、秋以降、日本から米国への自動車輸出は最悪ゼロになることも想定されます。
2024年の米国への輸出額を見ると、輸送用機械のうち、乗用車(トラック・バス除く)約135万台(5兆9,007億円)と自動車の部分品(1兆2,310億円)が大きな割合を占めています。日本企業の米国現地生産台数328万台が、1モデル当たりの部品の約5割を日本からの部品輸入に依存していることを踏まえると、部品輸出の20%が減少した場合、約2,500億円の損失となります。乗用車の輸出が全損と仮定すれば、合計で6兆1,507億円の輸出減少が想定されます。さらに鉄鋼(3,026億円)とアルミ(246億円)は高機能素材であり、即時の代替は困難と見られ、仮に関税除外の対象にならなかった場合でも全損にはならず、半減と見積もって約1,600億円の減少となります。また、半導体関連(7,953億円)は米国でも不可欠であるので、25%関税の対象にはならないと見て、15%減(1,200億円減)と想定。医薬品(4,114億円)は、米国において自動車を上回る貿易赤字を生んでおり、25%関税が課される可能性が高いため、25%減として1,028億円の損失と仮定します。これらを除いたその他の対米輸出(13兆6,545億円)に一律10%の関税が課されると仮定した場合、10%減すなわち1兆3,655億円の減少が予想されます。以上を合計すると、鉄鋼・アルミ・医薬品を除いて考えても7兆8,052億円の輸出減少となります。これは、米国の対日貿易赤字643億ドル(9兆6,450億円)の約8割に相当します。仮に24%の追加関税が発動された場合、対日貿易赤字全体に相当する影響が出ることも想定されます。
さらに間接的な影響も考慮する必要があります。日本の輸出額上位国と地域を見ると(表)、ベトナムは米国との相互関税が4割以上にのぼるため貿易額が1兆円減少すると予測されます。韓国についても同様で、貿易額が25%減となり1兆7,500億円減少すると想定。中国と香港に関しては、115%の削減合意があっても30%関税の半分に当たる15%減と見積もり、3兆6,450億円の減少。その他の国々(約52兆円)については弾力性が低いと見られ、5%の減少として2兆6,000億円の損失が見込まれます。これらを合計すると、間接的な減少は最大で9兆9,950億円にのぼり、2025年7月以降、年間最大で17兆8,002億円規模の貿易減少が起こる可能性があります。
国内経済へ目を向けると、自動車産業への打撃は、タイヤ用のゴム、ポンプ、機械、ガラス、プラスチック、衣類など、幅広い関連分野の減産を引き起こすことが予想されます。そのため、日本国内の製造業への影響は、リーマンショック時を超える可能性も考慮しておく必要があります。
(数値は5月19日現在のもの)
「中小企業家しんぶん」 2025年 5月 25日号より