同友会の先進性と経営指針の重要性
経営理念、10年ビジョン、経営方針、経営計画からなる経営指針の確立と実践は、1977年から中同協が提唱してきた同友会の中心的な活動ですが、最近になって中小企業にとって経営理念やビジョンが重要であることが、広く指摘されるようになりました。1つにはエクイティ・ファイナンスの活用に伴って、中小企業のガバナンス強化が重要となり、そのなかで経営理念・ビジョンが求められるようになったことがあります(中小企業庁「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス」2023年)。
また、労働生産性の向上や、人材不足下で人材の採用・定着が重要課題になる中で、経営理念・ビジョンの策定と社員との共有が、これらの課題に有用であることが分かってきました。すなわち、長年にわたって行ってきた同友会の経営指針に関わる活動は、極めて先進的な取り組みであると同時に、昨今の不透明な社会情勢の中でも持続的な中小企業経営を実現できる有効な取り組みであると言えるのです。
2025年1~3月期のDORでは、オプション調査として、経営指針の成文化・実践状況についての設問を設けました。以下では、この調査結果から会員の経営指針の実践状況について見ていきます。経営指針の策定に関するオプション調査は、2022年4~6月期のDORでも実施しているので、それとの比較も踏まえて検討したいと思います(2022年のオプション調査結果は、2022年9月25日号に掲載)。
体系的な経営指針の作成は継続課題
経営理念については、「ある」(「ある」+「ある(社内公開済)」+「ある(社内外公開済)」の合計)と回答した割合は94・8%であり、22年調査時の93・1%とほぼ同じで、ほとんどの会員が経営理念を策定しています(図1)。しかし、10年ビジョン、経営方針、経営計画になると、その割合は下がり、それぞれ56・6%、71・8%、84・7%でした。

22年の調査結果でも同様の傾向にあり、体系的な経営指針の策定は継続課題となっていると言えそうです。経営指針の策定は、自社の社会的存在意義を明確にした経営理念をつくり、その経営理念を追求するために理想的な将来像=10年ビジョンが描かれ、そのビジョンの実現のために中・長期的な経営方針が定められ、さらにそれをもとに単年度の経営計画が決められる体系性をもったものと想定しています。
ただし、前回調査と比べると、10年ビジョンと経営方針の策定割合が増加しているのは改善している点です。今後も10年ビジョン、経営方針、経営計画の策定割合が、経営理念と同じ水準になるように取り組むことが重要と考えます。
経営理念、ビジョンの共有で指針を生かそう
経営理念が「ある」と回答した割合は94・8%ですが、社内公開済、社内外公開済とした割合は48・1%まで下がります。つまり、公開と非公開がほぼ同じ割合となっています。「公開」が経営理念の従業員との共有や顧客、金融機関、地域住民などのステークホルダーとの共有ということを意味しているとすれば、経営理念を策定している会員の半分が関係者と経営理念を共有できていないということになります。
冒頭で述べたように、近年、中小企業の経営理念、ビジョンが注目されるようになった1つの理由は、経営理念、ビジョンを明文化し、また、それを社内に浸透させていくことが労働生産性の上昇幅を大きくさせ、従業員のモチベーションを向上させる可能性が示唆されているからです(『中小企業白書2022年版』第2部第2章第3節)。また、従業員と経営理念、ビジョンを共有している企業は、共有していない企業よりも、従業員の定着割合が高く、売上高や付加価値額の変化率が高いこともわかっています(『中小企業白書2025年版』第2部第1章第2節)。
経営理念、ビジョンを共有(公開)していることが経営に効果があることは今回の調査からも示唆されます。例えば、経営指針の公開別に1人当たりの売上高、付加価値額のDI値(「増加」-「減少」、%)を見ると、共有(公開)している方がポイントが高くなる傾向にあります(図2)。これは、採算など他の指標でも言えることで、前回の調査でも同じことが言えます。このデータだけで経営指針の共有が経営に効果があるとは一概に言えませんが、経営理念が単に「ある」というだけでは宝の持ち腐れです。

今後の同友会の経営指針の策定運動の重要な課題として、前述した体系的な経営指針の策定と同時に、少なくとも従業員との共有(公開)を進めていくことが挙げられるでしょう。
経営指針の見直しの意味
調査では2020年以降の経営指針の見直しについても尋ねています。調査結果によれば、「見直していない」割合は、経営理念でもっとも高く、経営計画でもっとも低くなっています(図3)。経営理念は、その企業の社会的存在意義を示す普遍的な内容を示すので、見直されていないことが必ずしも否定的な意味を持つわけではありません。また、単年度の経営計画は刻々と変化する社会情勢に合わせて修正していくのが当たり前ですから、「見直していない」割合が低くなるのも当然のことと思われます。

ただし、注意したいのは2020年から現在までの期間は、コロナ禍、ウクライナ戦争、物価高、少子高齢化と空前絶後の人材不足、トランプ関税による混乱など、それ以前の社会のありようから価値観や生活スタイルも含めて大きく変化した(変化している)時期であるという点です。こうした大きな社会の転換期においては、企業の社会的存在意義もあらためて問われてくるのではないでしょうか。もし、会社の創業時や継承時に策定された経営理念が形骸化し、経営方針や経営計画との一体性が失われているような事態が発生していて、目先の経営計画だけを見直しているとすれば、経営理念にまでさかのぼって再構築する必要があるでしょう。経営理念やビジョンを見直している中小企業は、経営理念、ビジョンと経営戦略の整合性を重視しているというデータもあります(『中小企業白書2022年版』Ⅱ―152ページ)。経営理念が“おかざり”になっていないかどうかあらためて検証し、10年ビジョン、経営方針、経営計画に至る体系的な経営指針の策定を再考することも今の時期だからこそできる大切なことと考えます。
何を重視しているか―社会が大きく動いている時期だからこそ経営指針を見つめる
事実、今後経営指針の見直しにあたって重視している事柄に関する設問では、外的要因として、「顧客・取引先・市場の変化」55・2%、「賃上げ」35・7%、「人口減少、少子高齢化」33・8%、「物価上昇」29・5%などが上位項目となり、内的要因として、「人材育成」54・1%、「人材確保」47・3%、「働き方」31・5%が上位項目になっています。社会の構造的な変化と、それに伴って発生する課題を重視していることが分かります。
社会が大きく動いている時期だからこそ経営理念を見つめ直し、それを従業員と共有し、体系的な経営指針を策定すること、このことが、先行きが不透明な中でも経営を維持・発展するための導きになるのではないでしょうか。
「中小企業家しんぶん」 2025年 7月 15日号より









