「中小企業における労使関係の見解(労使見解)」の発表50年を記念し、「労使見解とわたし~発表50周年に寄せて」をテーマに全国から多くの原稿が寄せられました。お送りいただいた原稿を連載で紹介します。
合同会社久遠 代表社員 富山同友会相談役 近江 清(富山)
「社員を最も信頼するパートナーと考える」私の最終章は、社員に経営を委ねる事業承継です。32歳で父から事業継承(8番らーめんフランチャイズ)して約30年、社長として企業((株)フォーシーズンズ)を引っ張ってきました。
50歳を超えたころ、次の担い手が親族にはおらず、社員たちに相談、そして1人の男が手を挙げてくれました。同友会への入会、経営指針の成文化などのミッションを与え、10年間かけてさまざまな課題を乗り越えていきました。
父が創業した会社を親族以外に承継することには、大きな壁があります。まず1つは、社員たちの受け入れ問題。よい引き継ぎ環境をつくることです。具体的には、私の影響力を薄め、次期社長の存在感を表に出していくことです。自分の存在を薄めるということは自己主張の強い私には苦しい時間でした。1人で辛いお酒を飲んだものです。
もう1つは、取引業者、金融機関、次期社長の家族、私の親族の理解です。私を中心に回っていたことが、次の社長に大きな責任としてのしかかってきます。10年の期間中に、実績を積ませ信用を得ていく過程です。金融機関への保証問題も業績、財務改善で無担保無保証会社に2人でできました。次期社長の家族へのリスク回避や私の親族の納得を得ることに細心を注ぎました。
最後は、私自身のモチベーションです。事業承継の最大のリスクは、渡したあとの人生設計です。人生はまだ長く、第2の人生のステージをイメージすることがよい事業承継の形です。「社員を最も信頼するパートナーと考える」と同友会で学び、共に育ち、人間らしく生きるこということは、経営者として最高の喜びです。
ハンズバリュー(株) 代表取締役 島田 慶資(山形)
2009年に創業し、翌2010年に山形同友会へ入会しました。2014年には「経営指針をつくる会」を修了し、経営理念を自分の志として掲げました。
しかし当時の私は、経営を “技術”と捉えるコンサルタント気質が強く、「労使見解」が示す“人間性や社会性”を深くは理解できていませんでした。
その理解や姿勢のままでは会社は変わらず、離職が相次ぎ、売り上げも黒字と赤字を行き来するばかり。自分が変わらないまま異なる結果を求める…今思えば滑稽ですが、当時はその仕組みに気づけず、同友会で学ぶ内容を“きれいごと”に感じていました。しかしながら経営は厳しいばかり。「10年以上学んできて、手元に何が残ったのだろう」と自問する日々が続きます。
決定的な転機は、大炎上したある日のことでした。
数字は悪化し、従業員の表情も曇り、出口のないトンネルで方向感覚を失ったような感覚で「もう限界かもしれない」と初めて弱音を吐きました。何かにすがろうと、気力もないまま同友会の例会に出席しました。報告者の「社員の人生に向き合う覚悟」という一言に胸を突かれました。「社員が辞めていくのは経営者である自分の未成熟ではないか」と、はじめて自分ごととして腹に落ちた瞬間です。売り上げや利益の上げ下げより先に、経営者がどんな“姿勢”で人と向き合うのか。それが社員の安心と挑戦意欲を生み、結果的にみんなが幸せになる。数字しか見てこなかった私にとって“痛い真実”でしたが、だからこそ向き合う意味があると感じました。
改めて「労使見解」を開くと、そこに具体的な“答え”はなく「自社に合ったやり方を自ら見つけよ」と静かに迫ってきます。まさに“姿勢”が問われる。この事実を初めて真正面から受け止め、腹に落とすことができました。
経営は喜びもありますが、それ以上に厳しい局面が訪れます。それでも私は、経営指針に基づき、従業員とその家族、取引先、そして地域社会にとって価値ある会社を育てると決意しています。その実現に向け、これからも一歩一歩前へ進んでいきます。
また同友会には、同じ志で学び合える仲間がいます。「労使見解」という共有言語を通じ、互いの学びと体験を重ね、よりよい企業と地域を築いていく。これが今の私の決意です。
「中小企業家しんぶん」 2025年 8月 25日号より









