【あっこんな会社あったんだ!】付加価値の向上 
地域密着型もやしメーカーの挑戦 
(有)三吉商店 代表取締役 石橋 隆太郎氏(石川)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「付加価値の向上」をテーマに、石橋隆太郎氏((有)三吉商店代表取締役、石川同友会会員)の実践を紹介します。

 石川県に本社を置く三吉商店は、創業72年のもやし製造の老舗です。祖父が始めたもやし事業は、時代の変化に合わせて根付きもやしから根切りもやしへ転換を図り、設備投資を進めるなど革新を続け、現在は北陸で唯一のもやし製造会社として地域の食卓に新鮮なもやしを届けています。かつては商店街の八百屋が主な顧客でしたが、都市化や市場移転に伴い工場も移動。水質のよい地域を選び、鮮度を重視した地元流通に力を入れています。もやしは水分が多く腐りやすいため、遠方への流通が難しく、地元スーパーとの連携は同社の強みとなっています。

指針講座をきっかけに経営の軸を築く

 石橋氏は大学時代、父親が始めた「まいどおおきに食堂」のFC店舗で店長を務めました。初めての管理職で多忙を極めながらも、周囲の力を借りて乗り越えた経験から「完璧でなくてもいい、周囲に任せることの大切さを学んだ」と語ります。その後25歳で三吉商店に入社しましたが、「社長の息子」として何をすればいいか分からず、他の社員との溝を感じ、勝手に会社を休むこともありました。

 転機となったのは同友会の指針講座への参加です。自社について祖父から話を聞く中で「三吉を頼むな」という言葉をかけられ、事業の重みを実感しました。

 もやしは農薬や化学肥料を使わず水だけで育てる新芽野菜で、低カロリーかつ栄養素の吸収を助けるモリブデンを豊富に含みます。石橋氏はこのもやしの健康効果に注目し、健康志向を経営理念の中心に据えました。

 しかし業界の厳しさは並大抵ではありません。原材料の価格高騰と小売価格の下落により、365日稼働しても利益は薄いのが現状です。もやしメーカーはこの30年で約400社が廃業し、現在全国で約90社まで減少しています。石橋氏は「大量生産で低価格化を図らねばならないが、同じ土俵で大手と戦っても勝てない」と語ります。

 もやしの魅力を広めるため、かつては無添加のドレッシング事業にも挑戦しましたが、原価計算や価格転嫁がうまくいかず、赤字を垂れ流す苦い経験をしました。これにより、「いい商品でも売ることができなければ意味がない」と痛感し、販売チャンネルの見直しを進めました。現在はスーパーのドレッシングコーナーではなく、もやし売り場の近くに専用の「もやし屋のまかないダレ」を置き、付加価値商品として月4000本のヒットを生み出しています。

飲食店経営の挫折と未来への展望

 2019年には健康志向の羊肉を提供するジンギスカン店を開業し、予約の取れない人気店となりましたが、緊急事態宣言の直撃を受け経営が悪化し、飲食業からの撤退を余儀なくされました。この挫折は社内の士気にも大きく影響しましたが、現在はコロナ禍で中断していた社員教育の再構築に取り組み、次代の管理職採用の検討を含め組織活性化を進めています。

 海外展開も積極的に模索しており、これまでアゼルバイジャンなどで「もやし」と「もやし屋のまかないダレ」の普及活動を行ってきました。もやしは東アジアを中心に食されているものの、健康志向の高まりから世界市場での需要拡大が期待されると石橋氏は考えています。

 石橋氏は「健康であることこそが幸せ。もやしを通じて健康な時間を届けたい」と語り、食育活動にも力を入れています。小学生の工場見学や地域の学校での講演を通じて、食への感謝や健康の大切さを伝える取り組みは、地域社会との絆を強める一助となっています。

 地域に根ざした企業として、「健康」をキーワードに時代に即した挑戦を続ける三吉商店の今後に注目です。

会社概要

設立:1953年
社員数:22名
事業内容:もやし製造、調味料製造
URL:https://sankichi-moyashi.com/

「中小企業家しんぶん」 2025年 9月 15日号より