2025年4~6月期同友会景況調査(DOR)オプション調査結果より 
大幅賃上げへの持続的な対応を 企業体制構築は喫緊の課題 
中央大学経済学部教授 鬼丸 朋子(中同協企業環境研究センター委員)

ここ数年、安定的で持続的な賃上げの実現に向けた機運が高まってきています。実際、東京商工会議所『中小企業の賃金改定に関する調査』(2025)によると、「正社員の賃上げ額(月額)」は2024年と比較して全体で1412円、20人以下の小規模企業で767円高くなっています。他の調査でも、同程度の賃上げが実施されています。そこで、今回は2023年4~6月期以来2年ぶりに、2025年4~6月期のDORオプション調査にて、会員企業の正規従業員における今年度の賃上げの実情を調査しました。

8割以上の会員企業が賃上げを決断

今回の調査で、2025年度に正規従業員に対して賃上げを「実施した」・「実施予定」と回答したのは、それぞれ64・6%、18・2%で、計82・8%の会員企業が賃上げを決断したことになります。これは前回の78・9%を3・9ポイント上回っています。業種別に見ると、前回は流通・商業、サービス業は7割台でしたが、今回、賃上げを「実施した」・「実施予定」とする回答が全業種で8割を超えています。

図表1を見ると、3%未満の賃上げ率と回答した会員企業が37・6%、3%以上が62・4%となっています。特に、5%以上の賃上げ率は23・3%と、回答企業の4分の1近くに上っています。これを前回と比較すると、今回の方が3%以上5%未満で3・3ポイント増。さらに、5%以上10%未満で10・2ポイント増と、前回設問から2倍近く高くなっています。

2025年の中小企業の平均賃上げ率がおおむね3~5%に収まっていたことから、今回の設問結果を企業規模別に「3%未満」、「3%以上5%未満」、「5%以上」の3つのグループに分けたものが図表2です。同図表を見ると、「3%未満」と回答した会員企業は、「5人未満」および「5人以上10人未満」で全体平均より高めになっていました。「3%以上5%未満」は、「50人以上100人未満」および「100人以上」で全体平均より高くなっています。一方で、「5%以上」は、「5人未満」が28・9%、「10人以上20人未満」が23・4%、「20人以上50人未満」が24・5%と平均をわずかに上回りますが、必ずしも従業員規模が大きくなるほど「5%以上」の賃上げに踏み切る会員企業が増えているわけではありません。

1万円以上の賃上げに踏み切る企業が前回よりも増加

また、賃上げ額について図表3で確認すると、今回、1万円未満は63・2%、1万円以上は36・8%でした。一方、前回は1万円未満は76・6%、1万円以上は23・4%でした。前回と比較して、全体として賃上げ額が上昇する傾向が見られます。中でも、1万円以上2万円未満は12・9ポイント増となりました。

賃上げ額を従業員規模別に見たものが図表4です。同図表を見ると、7000円未満と回答した割合は、従業員規模が小さいところの方がわずかに高めになる傾向があります。一方、「7000円以上1万円未満」、「1万円以上2万円未満」では「50人以上100人未満」および「100人以上」で全体平均より高くなっています。しかし、「2万円以上3万円未満」、「3万円以上」と回答した企業の割合は「5人未満」が最も高くなっています。

賃上げの理由は「従業員のモチベーションの維持・向上」が最多

図表5で賃上げの内容を確認すると、「ベースアップ」を実施したとする回答が最も多く65・3%、次いで「定期昇給」が61・4%。賃上げの内容について前回から大きな変化はありませんでした。

図表6で「賃上げの理由」を確認すると、「従業員のモチベーションの維持・向上」が78・3%でした。次いで、「物価上昇への対応(従業員の生活保障)」が59・1%、「雇用維持のため」51・9%、「人材確保のため」48・2%となっています。従業員規模別に見ると、「5人未満」で「従業員のモチベーションの維持・向上」が88・0%と他の従業員規模よりも高くなっています。一方で、「物価上昇への対応(従業員の生活保障)」、「雇用維持のため」、「人材確保のため」については、いずれも全体平均未満。これら3つの選択肢は、企業規模が大きくなるほど高くなる傾向が見られますが、特に「雇用維持のため」、「人材確保のため」は他の項目と比較して従業員規模による違いが大きくなっています。

「賃上げのある世界」に対応可能な体制づくりを

今回のオプション調査の回答から、原材料費・燃料費や人件費の価格転嫁が必ずしも十分に実現しない状況において、がんばってくれる従業員に報い、人材を確保・維持していくために、多くの会員企業が持続的かつ大幅な賃上げに対応している姿が浮かび上がってきます。近年、日本銀行のマイナス金利政策解除などを受けて「金利のある世界」に戻ってきていますが、賃金についてもおよそ30年ぶりに「賃上げのある世界」に戻りつつあります。しかも、2023年調査と比較して今回の方が大幅な賃上げを実施した会員企業が増えたことや、春闘における持続的な賃上げへの期待などを鑑みれば、大きな社会経済状況の変化が生じない限り、今後も「賃上げのある世界」が続くことが予想されます。賃上げは、従業員の暮らしを守るだけでなく、人材の維持・向上を図り、モチベーションを喚起するなど、企業の人材戦略、ひいては企業経営に大きな影響を与えるという重要な役割を担っていることから、これまでの「賃上げのない世界」の中で形作られてきた体制を見直し、持続的な賃上げの実施を前提とした体制づくりを急ピッチで進めることが重要です。

「中小企業家しんぶん」 2025年 10月 5日号より