【あっこんな会社あったんだ!】地域連携 
十勝の大地と共に歩むパン屋 
(株)満寿屋商店 代表取締役 杉山 雅則氏(北海道)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「地域連携」をテーマに、杉山雅則氏((株)満寿屋商店代表取締役、北海道同友会会員)の実践を紹介します。

2030年、十勝をパン王国へ

 北海道・十勝の地で1950年に創業した(株)満寿屋商店。創業者は、現社長の杉山雅則氏の祖父です。戦後間もない時代に「農家の方々においしいパンを届けたい」という想(おも)いから、小さなパン店を始めました。現在、4代目としてかじを取る杉山氏が掲げるビジョンは、「2030年 十勝がパン王国になる」という壮大なものです。

 このビジョンの原点は、先代社長の代から続く「地元小麦へのこだわり」です。当時、国内ではうどん用小麦が主流で、パンづくりには外国産の小麦を使うのが当たり前でした。同社も当初は外国産小麦を使用していましたが、先代は「十勝の小麦でパンをつくりたい」と、生産者と二人三脚で新たな挑戦を始めます。パンに適した小麦「ハルユタカ」の栽培に着手しましたが、この品種は栽培が非常に難しく、試行錯誤の連続。それでも地元農家との連携で、地元産小麦の割合を少しずつ増やし、2012年、全店舗・全商品で「十勝産小麦100%」を達成しました。また、小麦だけでなく砂糖や小豆など、可能な限り地元産の素材を使用。地産地消を実践する先駆者として、満寿屋商店は着実に地域ブランドを築き上げてきました。

 さらに、「十勝パンを創る会」を立ち上げ、他社と連携して地域ならではの名物パン開発にも力を注いでいます。

「パンのテーマパーク」計画が進行中

 2026年の春には「パンのテーマパーク」の開業を予定しています。これは、日本一の敷地面積を誇るベーカリー「麦音(むぎおと)」を拡張する形で進められています。

 新施設では、馬の牧場を併設し、たい肥を小麦畑に循環させる仕組みを見える化。ただパンを売るだけでなく、「食と農のつながり」を体感できる場づくりをめざしています。さらに2027年には、パンづくり体験を中心とした施設のオープンを予定。研究開発を行うラボと体験型スペースを組み合わせた、新たな地域拠点としての役割も担います。

子どもたちへの食育と人材育成

 同社は未来を担う子どもたちに、十勝の食の魅力を伝えることにも力を入れています。2005年からは、石窯を軽トラックに載せて地元幼稚園や小学校を巡るピザ・パン教室を実施。これまでに900回以上開催し、十勝産小麦に触れ、自分でつくったパンを食べる体験を提供してきました。中には「小学生のときに体験した子が、10年後に社員になった」ケースもあると言います。

 また、帯広農業高校との連携も深めており、小麦の種まき体験をはじめ、パンの耳を豚の飼料として再利用し、その豚肉を使ったベーコン入りのパンの開発など、循環型の取り組みも積極的に進めています。

人材確保と働き方改革への挑戦

 一方で、同社が直面している課題は「人」です。社員数は約200名、売上高は10億円規模ですが、人手不足に加え、賃金上昇や働き方改革による労働時間の短縮が現場に大きな影響を与えています。

 こうした状況の中で、同社は移住者採用を積極的に進めており、一昨年も1名の移住者が入社しました。

 また、社員自らがアイデアを出し合う「ますやカップ」という商品開発コンテストを実施し、社員の成長を後押し。離職率低下にもつなげています。

 さらに、生産者と社員が直接交流できる研修を行い、農業や地域への理解を深める取り組みも行っています。

「十勝だからできる」強みを生かして

 今後は「十勝産小麦のブランド化」「十勝を代表するパンの開発」「パンのテーマパークの開業」「パンについて学べる教育機関設立」という柱を軸に、事業を展開していく予定です。

 小麦の品種改良から製品化までを地域内で一貫して行えるのは十勝ならではの強み。杉山氏は「中小企業だからこそ、地域資源を深く掘り下げ、他地域にはない価値を生み出せる」と語ります。

 これからも、満寿屋商店は地元の食と文化を次世代につなぐ挑戦を続けていきます。2030年、「十勝がパン王国になる」日は着実に近づいています。

会社概要

設立:1950年
従業員数:150名
事業内容:パン製造販売
URL:https://www.masuyapan.com/

「中小企業家しんぶん」 2025年 10月 5日号より