【わが社のSDGs】
倒産からの再生、社員と共に成長する企業へ 
林建設(株) 代表取締役 林 茂氏(富山)

連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第26回は、林建設(株)(林茂代表取締役、富山同友会会員)の取り組みです。

再出発と経営理念

林建設(株)は、富山県や富山市などの公共施設の建設を事業の柱とする総合建設業です。関東支店では、慶應義塾大学各キャンパスなどの修繕工事も手がけています。売り上げに占める公共事業の比率は40%以上に上り、さらに大学・病院関連工事を含めると65%を占めるなど、社会貢献度の高い事業構造が同社の大きな強みです。

 2008年、祖父が創業した85年の歴史を持つ前会社が経営破綻したことを契機に、当時副社長だった林氏は、「社員を守らなければ」という強い思いから建築部門を引き継ぎ、新会社を立ち上げました。裁判所から民事再生計画案が許可されるまでは多難でしたが、金融機関や地元経済人の協力を得ながら、約35名の社員と共に再出発を果たしました。林氏は「2度と倒産しない会社にする」という覚悟を胸に、経営のかじを切ります。

 2011年には、富山同友会に入会し、「全社員の幸せ」を第1に掲げる経営理念を策定。以前はトップダウン型の組織でしたが、全社員と思いを共有し、一丸となって進む会社をめざしました。そのため自ら現場に足を運び、日常的に社員との対話を重ねました。

新たな事業とSDGsへの取り組み

 同社は2008年の会社設立時にISO9000を取得。2009年には鳥害対策事業に着手しました。顧客からの「工場や倉庫に鳩が入り、糞害に困っている」という相談がきっかけです。現地調査も重ね、佐賀県をはじめ全国の先進企業から学んだ技術を導入。2015年に開業した北陸新幹線の駅舎をはじめ、県内外の行政機関からも依頼を受けるようになりました。

 さらに2019年には、インサート成形メーカーの(株)コージン(富山同友会会員)と共同開発した忌避具「BYE BIRD」を商品化。鳥に害を与えずに被害を防ぐこの取り組みは、自然との共生を重視したもので、SDGsのゴール15「陸の豊かさも守ろう」に直結しています。

 また、林氏は富山市主催のSDGs勉強会をきっかけに、SDGs宣言を2018年に実施。最初は取り組むゴールを3つに絞り、社員への浸透を優先しました。達成可能な目標を設定し、徐々に活動の範囲を拡大。現在では7つのゴールに基づき、CO2排出量管理など具体的な活動を全社で行っています。特に若手社員は学校でSDGsを学んできたこともあり、取り組みの理解が早いと言います。2021年にはエコアクション21も取得し、現場での環境配慮を数値化・管理する仕組みも構築しました。

地域と社員と共に成長する企業へ

 同社は社員育成と地域貢献にも注力しています。地元の工業高校建築科から新卒採用を行い、若手社員が全体の約30%を占めています。入社後は資格取得支援制度や研修、ご当地グルメをグループごとに選んで食事会を楽しむ社員旅行などチームワークや専門スキルを育成。また、ベテラン社員の再雇用制度や医療費補助(年間15万円まで)を導入し、多様な世代が安心して働ける環境を整備。これにより離職率は非常に低く、社員の定着率向上に貢献しています。

 地域活動にも積極的で、市内全域で行われる「ふるさと富山美化大作戦」や町内会納涼祭への敷地提供など、地域との交流を重視しています。

 また、東日本大震災の際に社員と連絡が取れなくなったことをきっかけに、2015年にはBCP(事業継続計画)を策定し、顧客先企業や協力会社と年2回の防災訓練を実施。2017年には人工衛星アンテナを本社敷地に設置し、災害時でも通信が確保できる体制を整えています。

 今後は、脱炭素経営をめざすとともに、若手社員の活力を生かして新たな建築関連事業に挑戦する方針です。会社としては利益向上と給与増加を両立させるために、達成できる目標を設定しつつ、決算賞与などで社員のモチベーションを維持していきたいと林氏は語ります。林建設はこれからも、「全社員の幸せのために」社会に貢献できる企業であり続けることをめざしています。

会社概要

設立:2008年
資本金:5,000万円
従業員数:40名
事業内容:総合建設業、鳥害対策工事
URL:http://www.hayashikk.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2025年 10月 15日号より