令和6年度版『中小企業白書』によると、2024年の企業倒産件数は増加傾向にある一方、後継者不在などを理由に自主的に事業をたたむ「休廃業・解散」は年間約6万9000件に上っています(図1)。倒産は約1万件となっており、倒産よりも“自主廃業”が上回る状況が続いています(図2)。これは経営環境の変化だけでなく、構造的な問題であり、日本経済の屋台骨を支える中小企業や地域の現場で、「静かな廃業」が進んでいます。

背景には、経営者の高齢化と後継者難があり、後継者不在率は約53%と過半数が不在となっています。日本政策金融公庫の調査でも約6割の経営者が「後継者が決まっていない」と回答しており、中小企業経営者の平均年齢は60歳を超える中、事業の持続可能性のみならず地域経済自体が危ぶまれる状況とも言えます。
近年は事業承継税制の拡充やM&Aマッチングの支援など政策的な後押しも進んではいます。事業承継に際しては、株式の時価評価によって優良企業ほど事業承継が困難になっています。事業承継税制では税の猶予措置が中心であり、免除措置の拡大などが必要です。中同協は、親族などで合意した場合は額面での承継とすべきと要望しており、政策・税制面で一層踏み込んだものが求められます。加えて、廃業の背景には「人手不足」「価格転嫁の遅れ」「エネルギーや仕入れコスト上昇」といった複合的な要因が重なっており、白書では、コロナ禍や円安を経て収益率が低下した企業ほど、廃業を選択する傾向が強まっていることも示されています。承継制度の一層踏み込んだ税制を進めるとともに、企業の体力強化や底上げを進める大胆な政策が求められます。
同時に、「静かな廃業」は地域の産業構造の転換をも進めていると思われます。従来型の製造・建設業から、IT・サービス・環境関連へ注目が移る中で、中小企業の現場では、新しい技術やデジタル化に対応できる人材・資金の不足が顕著です。政府も成長産業へのシフトを進める方針を示しています。しかしながら、コロナ禍を通じてエッセンシャルワーカーの重要性が改めて認識された今こそ、地域のインフラを維持している農林水産業、建設業、製造業、医療や介護福祉、飲食店や商店、スーパーなどの地域経済を支える中小・小規模企業の存在を改めて見直すべきです。
中小企業と地域を「守り」「底上げ」し、「次代にどうつなぐか」という視点が必要です。静かに消えていく企業の背後には、地域の雇用や文化の喪失があります。だからこそ、中小企業政策は“事業承継支援”とともに“中小・小規模企業の底上げ”という視点で描かれるべきです。
「静かな廃業」は、単なる企業数の減少ではなく、地域経済の構造変化の静かな歩みとなっている状況の中、改めて、地域の砦であり希望である中小企業を、地域に残し、育てる同友会運動を地域の隅々に展開する必要があります。
「中小企業家しんぶん」 2025年 10月 25日号より









