中同協企業環境研究センター(略称:研究センター)では、全国の同友会会員企業の協力の下、年4回「同友会景況調査(DOR)」を実施しています。その報告書には、研究センター委員が執筆を担当するコラム「DORの眼」が掲載されています。今回は、その「DORの眼」より、DOR第155号(10月31日発表)に掲載された「ポストコロナの中国と日本の中小企業」を紹介します。
コロナ禍以前、私は共同研究の一環として、主に蘇州を拠点に日系中小製造業の実態調査を毎年続けてきた。私たち研究グループは2005年から2019年にかけて、延べ248カ所(日系164、外資9、ローカル52、政府機関等23)を訪ね、インタビューと工場観察を積み重ねた。その蓄積は、植田浩史・三嶋恒平編著『中国の日系企業―蘇州と国際産業集積―』(慶應義塾大学出版会、2021年度中小企業研究奨励賞準賞)に結実した。
パンデミックで中断していた調査は、2023年9月、寧波の金型企業を訪問して再開した。以後は蘇州や杭州にも足を延ばし、大学院生と共に現地で得た知見を「中国金型産業の変容と日中技術格差―中国における金型企業の実態調査からの試論―」(『商工金融』2025年9月号※)として発表した。
そこで垣間見た現実は、コロナ前の印象を大きく裏切るものであった。
私はこれまで、日本の中小企業(特に機械工業)の戦後史と現状調査を往復しながら、日本の比較優位の源泉を「連携」と「調整」に見てきた。すなわち、中小企業同士がチームで試行錯誤し、顧客と濃密に情報をやり取りしながら、個別仕様に最適化した製品を供給する―この経験学習の積み重ねが技術力の底上げを支えた、と。対して中国ローカル企業は、かつては圧倒的な低価格を武器に価格競争を牽引(けんいん)し、日系中小企業にとって厳しい土俵が続いた。だが2010年代後半、産業高度化に伴いローカル側が日系の技術力を求め始め、現地のやり方に合わせて「現地化」できた日系企業に商機が生まれる―これが前掲書での私の結論の1つであった。
しかしポストコロナの中国では、ローカル企業そのものが技術力と組織能力を著しく高め、日系企業に肉薄している。中核人材を育て、部門間を調整し、自社の強みをもとに外注先・顧客と合意形成を進める。2000年代の中国では想像しにくかった、いわば「日本的」とも見える経営が、当たり前の実務として展開されつつある。日本の比較優位を支えてきた中小企業の特質を信じてきた私にとって、容易には認めがたい光景だったが、変化は否応なく眼前にあった。
象徴的だったのは、論文でも紹介した中国の日系金型企業を率いる女性経営者との出会いである。日本での金型づくりを畳み、1990年代前半に中国で再出発した父親の跡を、金型も経営も素人の状態から継いだ彼女は、激しい外部環境の変化を直視し、組織と取引の仕組みを更新し続けていた。自社の強みを知ることの重要さと同時に、その強みが通用しなくなった現実を認識し、ビジネスを設計し直す勇気こそが決定的なのだと教えられた。
日本国内にあっても、グローバルな競争や地政学リスクの高まりからは逃れられない。日々書き換えられる現実の前で、従来の強みやビジネスモデルが通用しなくなったなら、その事実をまず受け止める。中国での金型企業の調査から見えたのは、比較優位は静止画ではなく、現地での相互学習と仕組みの再設計を通じて絶えず更新される「プロセス」だということである。
※https://shokosoken.or.jp/shokokinyuu/backnumber.html
DOR155号報告は下記のURLからご覧いただけます。
https://policy.doyu.jp/research_cat/dor/
「中小企業家しんぶん」 2025年 11月 5日号より









