「中小企業における労使関係の見解(労使見解)」の発表50年を記念し、「労使見解とわたし~発表50周年に寄せて」をテーマに全国から多くの原稿が寄せられました。お送りいただいた原稿を連載で紹介します。
(株)林商店 代表取締役 愛知同友会副代表理事 林 康雄(愛知)
弊社は、愛知県江南市にてベビー・子ども服、特に新生児衣料や和装の企画製造を行い、国内量販店や専門店向けのOEM事業を展開しています。1992年、私は2代目として入社し、ほぼ同時に中小企業家同友会にも入会しました。
当時はバブル崩壊直後で、金融ビッグバンの嵐が吹き荒れ、貸し渋りや貸し剥がしにより取引先の倒産が相次ぎました。その最中に先代が急逝、私は急きょ代表に就任し、社内は将来の見通しも立たない不安に包まれていました。協力会社や古参社員との関係づくりにも悩み、苦しんでいた私を救ってくれたのが、『人を生かす経営~中小企業における労使関係の見解』でした。
周囲の先輩会員たちは、同じように厳しい時代の中でも黒字企業が多く、皆が口々に「労使見解は経営のバイブルだ」と語っていました。その姿勢に背中を押され、私も積極的に同友会活動へと参加するようになりました。活動を通じて、労使見解の精神が会の根幹にあることを痛感、経営者としての姿勢を学び直す日々が続きました。
やがて弊社でも、全社員が関わる経営指針の策定へと歩みを進めることができました。人との信頼関係を築くには、まず経営者自身が自らの姿勢を見つめ直すことが不可欠であると痛感しています。今、私が経営を続けられているのも、両親をはじめ、社員、取引先、そして家族の支えがあってこそです。「人は1人では生きていない」「人との関係の中でこそ人は生きられる」という実感が芽生えてから、社内の空気も、協力会社との関係も大きく変わりました。
社員1人1人の自発性が発揮されるためには、まず経営者が高い目標と志を持ち、誠実な姿勢で向き合うことが求められます。そこに「人を生かす経営」の本質があるのだと、今では確信しています。
「労使見解」が発表されて50年。その表現には当時の時代背景も感じられますが、たとえ時代が変化しようとも、「人との関係を抜きにして人は生きられない」という普遍の真理に、私は今も強く共感します。
これからの時代に必要な議論はあるにせよ、「労使見解」はこれからも、経営者のあり方を問うバイブルとして、私たちにとってかけがえのない道しるべであり続けると信じています。
三和電気(株) 会長 宮崎 浩(東京)
私は29歳の時、創業者の父を支えるために家業の三和電気に入社。入社当初は仕事がなく孤立する中、現場勤務を志願し、過酷な環境での経験が人間的成長につながりました。
製造と営業の対立も経験し、現場出身者が営業に挑むことで互いの苦労を理解する転機もありました。東京同友会の大田支部に入ったのは30年前になります。
父から社長を引き継ぎ、私は社員とその家族を守る選択をしました。
社員から「家族に誇れる会社にしてほしい」と言われた言葉が胸に残り、経営者として勉強を始め、経営理念や経営指針をつくりました。その後、新工場移転を社員主導で成し遂げ、新工場完成時の社員たちの感謝の言葉が今も支えです。
品質対応では作り手が直接顧客と対話する方針に転換し、信頼回復と受注増に成功。過去には取引銀行の信用喪失で危機もありましたが、経営理念をお伝えすることで融資も実現。
資金繰りが苦しい中、役員の献身も心に残っています。後継の社長には社員の強い要望で息子を選任。数年間の現場経験を経て後継となり、2023年に東京同友会の「人を生かす経営大賞」をいただいたのはうれしい限りです。「人を生かす」というよりも多くの人に支えられ「生かされて」きました。私はただ社員ともお客さまとも「真摯(しんし)に向き合うこと」を大事にしてきただけです。多くの人に支えられた人生に、感謝の念を抱いています。
「中小企業家しんぶん」 2025年 11月 5日号より









