物価高や人材不足が続く中、中小企業はどのような対応を進めているのでしょうか。2025年7~9月期の同友会景況調査(DOR)のオプション調査から、同友会会員企業の賃金・物価上昇への取り組みの実態を見ていきます。
最大の課題は人件費の増加
まず、近年の賃金・物価上昇に対してどのような経営上の課題を感じているのかを確認します(図1)。全体の傾向を見ると、最も多かったのは「人件費の増加」(68%)であり、「原材料費や仕入れコストの増加」(51%)、「人材確保や定着の難しさ」(50%)、「収益性の圧迫」(41%)、「価格転嫁の難しさ」(28%)が続きました。
紙幅の関係で図を提示することはできませんが、企業規模別に見ると、「人件費の増加」や「人材確保や定着の難しさ」に課題を感じている企業は、従業員数10人未満の企業と比較して、10人以上の企業において多い傾向にありました。
採算水準別に見ると、「人件費の増加」を課題として感じている企業は、黒字企業では67%でしたが、赤字企業では80%に及びました。一方、「人材確保や定着の難しさ」については、黒字企業は53%でしたが、赤字企業は29%にとどまりました。黒字企業は優秀な人材を確保・定着できるかが課題となっている一方で、赤字企業は高騰する人件費が課題になっているようです。

対応の中心は賃上げと価格引き上げ
それでは、賃金・物価上昇に対してどのような対応が取られているのでしょうか(図2)。最も回答が多かったのは「賃上げの実施(予定含む)」(85%)であり、ほとんどの企業が賃上げに踏み切っています。次いで、「商品・サービスの価格を引き上げ(予定含む)」(55%)、「業務の効率化・生産性向上(DXなど)」(49%)、「新規事業の立ち上げ(検討含む)」(21%)、「支出や投資の見直し(採用抑制・経費削減など)」(17%)が上位5つの対策でした。
企業規模別に見ると、「賃上げの実施(予定含む)」や「業務の効率化・生産性向上(DXなど)」の対応策は、規模が大きくなるほど取り組んでいました。「特に対応はしていない」という回答は、全体ではわずか3%にとどまりましたが、5人未満の企業では9%となりました。

これらの対応策の主な目的は何だったのでしょうか(図3)。全体の傾向を見ると、最も多かったのは「賃上げ原資の確保」(50%)であり、「収益力の強化や競争力向上」(46%)、「業務プロセスの見直し・効率化」(43%)、「人手不足への対応」(41%)、「働き方改革・長時間労働の是正」(32%)が続きました。単なるコスト削減ではなく、将来を見据えて体質を改善しようという姿勢を見てとることができます。
4業種別に見ると、建設業では「人手不足への対応」と「働き方改革・長時間労働の是正」、製造業では「賃上げ原資の確保」と「新たな売上の創出」、流通・商業では「収益力の強化や競争力向上」と「業務プロセスの見直し・効率化」、サービス業では「人手不足への対応」と「コスト削減(人件費以外)」の回答数が多い傾向にありました。
採算水準別に見ると、「収益力の強化や競争力向上」を目的とした企業は、黒字企業では53%でしたが、赤字企業では27%にとどまりました。「業務プロセスの見直し・効率化」についても、黒字企業は52%でしたが、赤字企業は35%にとどまりました。

生産性向上のための人材投資とデジタル化
賃金・物価上昇の状況下で、生産性向上のためにどのような手段が導入・活用されているのでしょうか(図4)。具体的な手段としては、「社員教育・スキルアップ強化」(52%)が最も多く、「ITツールや既存システムの活用・見直し」(46%)、「業務プロセスや組織体制の見直し」(43%)、「補助金・助成金などの支援制度の活用」(35%)が続きました。注目されるのは「生成AIなどのデジタル技術導入・活用」(34%)であり、中小企業におけるデジタル化の進展を示す重要な兆候だと考えられます。一方で、「具体的な取り組みはまだ行っていない」という企業も7%あり、生産性向上に向けた取り組みに格差がある実態も見逃せません。

成果はこれから
これらの取り組みがどのような成果をもたらしているのでしょうか(図5)。
「プラスの影響が出ている」と回答した企業は18%にとどまりましたが、「今後、プラスの影響が期待できる」と回答した企業は58%と過半数を占めました。取り組みは短期的には負担を増加させるものですが、中長期的には成果が期待されるものだと理解されています。
「プラスの影響が出ている」という回答を4業種別に見ると、建設業が19%、製造業が21%、流通・商業が14%、サービス業が17%でした。
続いて、地域別に見ると、北海道・東北が16%、関東が24%、北陸・中部が16%、近畿が13%、中国・四国が21%、九州・沖縄が17%でした。
ただし、「影響を感じていない」(11%)、「分からない」(11%)という声も少なくありませんでした。

今回のオプション調査からは、賃金・物価上昇のなかで中小企業は賃上げや価格引き上げだけでなく、生産性の向上に尽力しているものの、その効果を享受できている企業はまだ一部にとどまっていることが分かりました。
人口推移の現実的なシナリオとみなされる出生中位推計によれば、2020年に約7500万人であった生産年齢人口は、2032年に7000万人、2043年には6000万人を割るまで減少する見込みです。労働力不足による賃金上昇の圧力は、一過性のものではなく、これから本格化する長期的なものです。
2024年4~6月期の同友会景況調査(DOR)のオプション調査の解説記事(『中小企業家しんぶん』2024年9月15日号)で企業環境研究センター座長の植田先生が強調された通り、各社には、業績を安定させたうえで、労働環境や人事に関する制度の整備を行い、経営指針に人材の定着と確保を位置づけることが求められています。
「中小企業家しんぶん」 2025年 12月 15日号より









