【あっこんな会社あったんだ】地域と共に 
環境変化に対応し、地域の未来をリードする存在へ 
(株)河一屋 代表取締役 河野 今朝成氏(長野)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「地域と共に」をテーマに、河野今朝成氏((株)河一屋代表取締役、長野同友会会員)の実践を紹介します。

 古くからスキーの村として親しまれる日本有数の温泉地・野沢温泉村。約300の宿泊施設が軒を連ねるその地域で(株)河一屋は旅館業を営んでいます。

 団体旅行から個人旅行へ、そして現在はインバウンドと、時代の変遷とともに外部環境やニーズが変化する中、河野氏は「社員の幸せ」「お客さまの感動」「地域貢献」の3つを柱に変革を続けています。

薄利多売からの脱却

 慰安旅行やバスツアーなど団体旅行を中心に事業を展開していた当時、先代(父)の方針は薄利多売でした。社員たちは休日が取れないほど多忙な日々を送っていましたが、プライベートを犠牲にした働き方には限界があり、労働環境の整備や社員の定着が同社の大きな課題でした。河野氏は、入社から10年が経過した38歳のときに父から代表交代。それまでの家族経営から脱却し、組織運営へと転換するために企業理念を策定して、自社のめざす方向性を明確に示すとともに「社員の幸福」を第1に掲げました。

 その後に着手したのが新卒採用です。中途採用が圧倒的に多い業界で、加速する人口減少への危機感もありましたが、「4月1日にフレッシュな風が入ってくることは組織にとって大きな好影響。毎年継続すると後輩ができるようになり、先輩がさらにやる気になる」と、何より社内風土の確立をめざして取り組み始めました。同時に給与規定や就業規則の整備も進め、現在まで毎年ブラッシュアップし続けています。

社員の人間性を育む

 同社では、全社員が参加する月例ミーティングを半日がかりで開催しており、必ず研修の時間を設けています。丸1日かけて業務改善に取り組むこともあると言いますが、「理想的な会社」を考えて発表してもらったり、会社経営を学んで自社の仕組みを自分事として捉えてもらったりと、内容は多岐にわたります。

 河野氏のビジョンは社員の人間性を育むこと。多様な考え方や価値観を身に付け、自ら進んで挑戦してほしいとの思いの下、自主的に行動する社員たちが育っていると言います。「みんな自信を持って接客しており、社員の顔と名前を覚えているお客さまもいるほど。経営者や管理職は役割が異なるだけで、いずれは社員たちにも社長を経験してもらいたい」と河野氏は語ります。

 研修を外部公開し、地域の経営者や他社の社員などが参加していることも特徴の1つです。お互いに交流を深め、刺激を受け合うと同時に、「一緒に勉強して頑張ろう」と思いを伝える場にもなっています。

業界・地域の先頭に立つ

 設備改修にも注力しており、施設の中規模改修を2年に1度、小規模改修は毎年のように実施しています。

30室あった客室は15室まで削減し、広い宴会場やカラオケ設備を備えた団体旅行向けの旅館から、個人向けの滞在型旅館へと変貌を遂げました。

 繁忙期と閑散期の差が業界課題だと言いますが、閑散期に改修を行うことで客室数が減少し、社員の負担軽減につながっています。目先の売り上げにとらわれず、長期的視点で取り組むことで季節差の変動が少なくなり平準化。コロナ禍で移動が制限され、日本中の宿泊業が多大な影響を受ける中でも、河野氏は「むしろ追い風になった」と振り返ります。滞在性の高い個人客向け旅館をめざす同社の方針は社会の潮流と合致し、コロナ禍を通して変革が加速しました。

 同社が標榜(ひょうぼう)するのは「地域のリーダー企業」です。雇用の受け皿となり、年間を通して宿泊客を受け入れ続けると同時に、河野氏は郷土料理やお祭りなどの地域文化を「再設計」して地域を底上げしたいと考えています。「縁があって入社してくれた社員たちには地域のことを大好きになってもらい、この場所で暮らし続けてほしい」―そうした河野氏の願いのもと、同社は将来に価値をつなげるリーダーとして、社員と共に100年先まで人々を魅了する存在であり続けます。

会社概要

創業:1970年
従業員数:26名
事業内容:旅館業、旅行業、物品販売業
URL:https://kawaichiya.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 1月 15日号より