【わが社のSDGs】
警備業界の常識を覆す社会性と収益性を両立する組織設計 ~9割が困難を抱える人材でも高生産性は実現できる~ 
ATUホールディングス(株) 代表取締役 岩﨑 龍太郎氏(福岡)

連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第29回は、ATUホールディングス(株)(岩崎龍太郎代表取締役、福岡同友会会員)の取り組みです。

社員の約9割が何らかの困難を抱える会社

 低利益・人手不足が常態化する警備業界は、賃金水準が相対的に低く、期間雇用の比率も高いため、不安定な働き方が温存されやすい側面があります。

 しかし、ATUホールディングス(株)は、全国約1万社の警備会社の中でも異色の存在です。社員の約9割は、身体・知的・精神障害のある人やひきこもり経験のある人など、一般就労が難しいとされてきた人たちです。

 それにもかかわらず、同社は補助金に依存せず、ほぼ全員を正社員として雇用しています。賃金水準も健常者と同額で、地域同業の平均より約10%高水準です。警備単価は地域相場より約15%高く、事故率・クレーム率はいずれも同業他社を大きく下回り、創業以来、黒字経営を継続しています。

 日本でいちばん大切にしたい会社大賞の審査委員会特別賞を、警備業として全国で初めて受賞した会社でもあります。

岩崎氏の原体験と経営哲学

 岩崎氏の経営観の根底には、幼少期の孤独感や、土木建設業で金属アレルギーを発症し退職を余儀なくされた経験など、「排除される側の痛み」を感じてきた原体験があります。

 退職後は、警備会社へ転身。現場で障害のある人の働く姿と制度の矛盾に直面し、雇用のあり方を変えたいと強く思うようになります。副社長として会社を成長させながら自費で大学院に通い、「企業は社会の公器であり、関係するすべての人々の幸せの追求・実現を使命とする」という考え方に出合いました。

 やがて、誰もが物心両面で幸せになれる会社をつくる決意を固め、福岡で起業に踏み出しました。

採用基準は「自転車に乗れること」

 同社の採用基準は「自転車に乗れること」です。自転車を扱う際の複雑な動作と判断ができるなら、仕事は工夫次第で身に付くという考えに基づき、他社が敬遠しがちな重度の障害者を優先的に受け入れています。

 育成は、まず「観察→結果→次の一歩」という型を身に付けることから始まります。何が起きたかを事実で捉え、どうなったかを確認し、小さな一手を選ぶ。そして再び結果を見る。この循環を繰り返すことを基礎として定着させます。現場での実践と振り返りを重ねながら、将来的に書類作成や後輩支援を担える人材をめざす段階的な仕組みです。指導では「なぜできないのか」という問いを避け、事実・結果・介入の視点で振り返り、最終的にどうするかの判断は本人に委ねます。実際には基礎段階にある職員が多いですが、この仕組みで時間をかけて主体性を育てています。

 また、昇給の評価比率は「同僚5割、部下3割、上司2割」。周囲への貢献度が給与に反映され、仲間からの評価が可視化されることで、自己効力感と責任感が育ち、離職率1・8%という低さにつながっています。

事故・クレームを構造的に減らす仕組み

 ATUでは「ミスは個人の責任ではなく、仕組みの問題」と捉え、独自のリスク管理手法「クリアリスク」で生産性を底上げしています。1人1日10分の対話を徹底し、現場の危険や不安を「~なので、~して、~になる」という形式で言語化。個人の経験や失敗を組織の知識として共有し、同じミスを繰り返さない仕組みを構築。さらに、本人同意のもと特性に由来するリスクも共有することで、事故やクレームを構造的に減らしています。

 結果として事故率は同業他社の100分の1、クレーム率は3分の1を実現しています。

トラブルの未然防止と付加価値創出を同時に実現

 同社は、現場監督からの無理な指示や危険な配置要求に対して、「安全でなければ引き受けない」という姿勢を貫いています。その代わりに、安全に実現する方法を組織で考え、警備配置図の作成や道路使用許可申請の補助といった、建設会社の手間とリスクを大幅に削減する新たな業務プロセスを生み出してきました。

 また、物流拠点での受付・誘導業務も請け負っており、マニュアル化とデジタルツールを組み合わせ、正確性を強みに生産性向上へとつなげています。

誰もが成長を実感できる社会へ

 ATUは行政からも信頼され、困難なケースの受け皿として頼られています。徹底して「多様性を尊重し、良質な仕事ができることを社会に証明」する姿勢そのものが、他社には再現しにくい経営戦略となり、ATUのブランド力を形づくっているのです。

 今後は福祉と就労の分断を越え、福祉の枠にとどまることで機会を失ってきた人々や、搾取されているグレーゾーンの人々の受け皿をつくりたいと岩崎氏は語ります。

 社会的弱者の問題は福祉だけでは解決しません。必要とされ、協力して働く関係性の中でこそ、人は生きる力を取り戻します。ATUの存続は「人はコストではない」という価値観の体現であり、誰もが成長を実感できるインクルーシブな社会への希望です。

会社概要

創業:2012年
社員数:51名
事業内容:駐車場警備、交通誘導警備、施設警備
URL:https://atu.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 3月 5日号より