全社一丸の強靭な企業づくりに向けて 
特集:2月~3月「働く環境づくり強化月間」

中同協経営労働委員会では、毎年2月~3月を「働く環境づくり強化月間」として、定期的な自社の見直しを呼び掛けています。今回の特集では、青森、神奈川、岐阜同友会会員の実践を紹介します。

多様な個人が輝く、共に生きる未来へ
(有)ローズリー資源 代表取締役 田中 桂子氏(青森)

青森市で素材リサイクル業などを営む(有)ローズリー資源。社名には、地域密着型のリサイクル事業を通して廃棄物を「ローズ(ばら)」のような美しい花へと生まれ変わらせたいとの願いが込められています。社員の年齢層が幅広く、21歳から86歳までが在籍。障害者も2名雇用しており、障害福祉サービスの利用者が企業で働く「施設外就労」の受け入れも行っています。さらに、元受刑者の雇用にも取り組むなど、多様な社員が活躍しているのが同社の特徴です。「経営者が仕事を切り分けることで、どんな人でも一生涯働ける環境をつくることができる。会社は家のような存在で、誰もが安心して過ごせる場であることが重要」と田中氏は話します。

経営者までの道のり

同社は、1996年に田中氏の父が大手電機メーカーを脱サラして創業しました。もともと専業主婦だった田中氏は、祖母を自宅で看取れなかった後悔からホームヘルパーの資格を取得し、デイサービスでの勤務を経て2010年に「社長付け」として同社に入社。当時業界内では女性は特異な存在で、社員たちは後継者候補に厳しい視線を向けました。物を投げられたり、暴言を吐かれたり、収集トラックに置いて行かれたことすらあったといいます。

その年の4月に青森同友会の定時総会にゲスト参加し、多くの女性経営者が活躍していることに驚いたのが同友会の第1印象だったと振り返ります。そして、経営指針を創る会を受講したことが先代の思いを知る機会となりました。「理念がないからこの会社はすぐに人が辞めるんだ」と父に詰め寄ると、返ってきたのは「食っていくのに必死で理念をつくっている時間が取れない」との言葉。営業日誌には、経営者としての不安や苦労が赤裸々につづられていました。また、創業当初から福祉事業所などと関わりがあり、社内に障害者自立支援実習室を設けるなど「困っている人を放っておけない」という考えが根底にあったことも知り、先代の思いを踏まえながら経営理念をつくり上げていきました。

誰もが輝ける環境づくり

田中氏は、当初は障害者雇用に関する知識は全くなかったと言いますが、ハローワークが主催する障害者の合同面接会を通じて3名を採用。そのうち2名は現在も勤めており、身体障害のある社員は部門長としてなくてはならない存在となっています。聴覚障害のある社員は働きながらフォークリフトの免許を取得し、リサイクル部門で活躍しています。社員たちが優しく接することで社内に思いやりが生まれ、社員たちの姿勢から自然と経営者も学びを得ていると言います。「障害があったとしても、その人ができる仕事を見つけることが経営者の役割。障害の有無でその人を判断するのはもったいない。まずは実習の受け入れなどから挑戦してほしい」と話します。

また、就労継続支援事業所と連携し、現在は3つの事業所から施設外就労を受け入れています。社員たちにはそれぞれの障害の特性を説明し、業務分担を工夫することで必要な配慮を提供できる仕組みにしており、利用者とその家族の喜びを生み出しています。こうした取り組みが評価され、青森県内の中小企業では初となる「もにす認定」も取得しました。

地域企業にしかできないこと

罪を犯した人の自立や社会復帰に協力する協力雇用主にも登録しており、これまで5名の元受刑者を採用しています。しかし4名は早期に退職。理由は再犯でした。定着が大きな課題となる中、「立ち直りたいという強い気持ちを持っている人もいる。そうした人に力を貸せるのは地域の中小企業しかない」と、取り組む理由を力強く話します。退職に際しては、むしろ社内で労働環境の見直しや話し合いの場を設けるチャンスと捉えており、社員教育や社員たちの成長が加速したとも言います。

また、地域の人々を対象に、環境問題の普及活動として企業見学の受け入れや、環境をテーマとした絵画コンクールなどを開催しています。中小企業だからこそ地域に会社を公開することが重要だと強調し、「この業界がなければ産業は動かないため、仕事に誇りを持っている。業界を知ってもらい、関わる人が増えてほしい」と話します。

「福祉も経営もみんなが幸せになるためにあり、切り分ける必要はない。さまざまな人が一緒に働き、お互いを知り合い、対等な人間として関わり合うことで、人が生きる社員教育につながる」と語る田中氏。すべての人が幸せに暮らせる社会に向け、これからも中小企業家の挑戦は続きます。

会社概要

設立:1996年
社員数:36名
事業内容:素材リサイクル業
URL:https://www.rozure.com/

数字を追う経営から、 理念と対話を軸にした経営へ
(株)ベストパートナー 代表取締役 加藤 睦氏(神奈川)

横浜・みなとみらいに本社を構える(株)ベストパートナーは、法人向けの損害保険・生命保険を主軸とする保険代理店です。2002年の創業以来、特に中小企業・零細企業に寄り添い続けており、2015年には沖縄支店を開設して2拠点で事業を展開しています。

「対話と会話」「理念で人を育てる」

加藤氏は、もともと大手外資系保険会社の営業マンとして実績を上げてきました。その後、個人で同社を立ち上げますが、「独立当初は、会社を大きくすることばかり考えていた」と振り返ります。

転機は、神奈川同友会で経営理念づくりに向き合ったことでした。いまから約20年前に、もともと顧客だった会員から紹介されて同友会に入会。当初は幽霊会員だったと言いますが、経営理念作成委員会への参加をきっかけに積極的に活動に参加し始めます。経営者同士が本気で自社をさらけ出し、互いに意見を交わす姿勢に衝撃を受けたと言い、「みんな本気なので、こちらも本気になれる。困ったときに相談できる仲間ができたことが大きい」と語ります。徐々に学びを深めながら、「対話と会話、理念で人を育てる」経営へと方針を転換していきました。

「2人担当制」が生んだチーム力

その象徴的な取り組みが「2人担当制」です。保険業界では1人の担当者が長期間顧客を抱えるのが一般的ですが、同社ではエリアごとに2人で担当し、担当者は定期的にローテーションしています。歩合制ではなく、会社全体で利益を出して分配する仕組みにすることで、「自分の顧客」という意識が薄れ、教え合う文化が定着しました。生命保険ではFP資格を持つ専任担当者が損保担当者と同行するなど、強みを掛け合わせた提案が可能になっています。無理に売り込むのではなく、顧客が何を求めているのかを丁寧に聴く姿勢へと変化し、信頼関係の深化につなげています。

2人体制は人材育成にも効果を上げています。実務を通じたOJTが機能し、知識や経験が共有されやすくなりました。また、チームで動く体制のため、有給休暇や育児休暇、介護休暇も取得しやすい環境が整っています。この3月には男性社員が育休を取得する予定で、これまでに長期の介護休暇を取得した社員もいます。

社内では、毎週月曜日にウェブでの全社朝礼を実施し、「グッド&ニュー」の時間を設けて1人1人が発言する仕組みを導入。趣味や家族の話題も共有しながら社内の相互理解を深める取り組みで、司会や議事録の担当も全社員がローテーションで回しています。また、第1週目の朝礼では契約に至らなかった案件や顧客の声を共有し、原因や改善策を全員で掘り下げています。失敗を個人の責任で終わらせず、組織の学びに変える仕組みです。

さらに社内にはバーカウンターを設置し、月1回の全体会議後や、保険会社を招いた際の懇親の場として活用しています。語り合う時間を増やすことで、率直な意見交換と信頼関係づくりにつながっています。同社の会議は若手リーダー社員が中心となって開催されており、責任を与えることで参画意識が向上し、主体性が育まれるとともに、仕事のやりがいを育んでいます。

派遣社員から正社員に転身し、もともと事務職で現在は営業職のリーダーとして勤める錦織さんは、「社長が何を考えているのかを常に発信してくれるので、会社のめざしている方向性が分かります。それが働きやすさやモチベーションにつながっています」と話します。

全員で描く未来

年2回の「夢会議」は、5年~10年先の自社の姿を全社員で共有する場です。売り上げや人員目標も公開し、世代別に未来像を描きます。経営方針キックオフ会議も毎年開催しており、同業他社で継続して開催している企業は少ないと言います。「優しくも厳しさのある会社でありたい。事業規模よりも人が育つ会社をめざしたい」と話す加藤氏。社員が育つことよって、売り上げや社員数が伸びていくという考え方です。

また、障害者雇用や外国人材の活用など社内の多様化にも挑戦する方針です。さらに副業規定の整備も進めており、そこで得た経験や気づきを本業に生かすことで、組織に厚みを持たせたいと考えています。「社員1人1人の人生が豊かになることが、結果として会社の力になる。身内に紹介したくなる会社でありたい」と語ります。

目標は「地域から必要とされる相談者第1位」。保険だからこそ実現できる相互扶助や弱者保護の思いを大切に、地域の最高のパートナーをめざしています。

会社概要

創業:2002年
社員数:16名
事業内容:損害保険・生命保険を主軸とする保険代理店
URL:http://www.your-bestpartner.co.jp/

100年の歴史を次代につなぐ~自走型組織への挑戦
日本いぶし瓦(株) 代表取締役 野々村 将任氏(岐阜)

一般住宅の屋根施工、雨漏り修理、葺き替え工事をはじめ、工場や倉庫など非住宅の屋根工事まで手掛ける日本いぶし瓦(株)。同社の歴史は野々村氏の曾祖父が瓦の製造を始めた100年以上前までさかのぼります。瓦の製造から施工へと舵を切り、高度経済成長期には100名以上の社員を抱えるまでに規模を拡大しますが、バブル崩壊後は急激に経営状態が悪化。当時社長だった野々村氏の父は辣腕を振るい、もうからない仕事や赤字部門はすべて切り捨てて業績をV字回復させます。利益第一主義の猛烈なトップダウンの一方で、社員たちは社長の愚痴や不満を言い合う指示待ち集団の会社でした。

経営指針に基づく経営へ

野々村氏は大学卒業後、地元信用金庫で6年間勤務し、2015年に同社に入社。創業100周年を迎えた2021年に社長に就任しました。同友会には2018年に入会し、「組織の成功循環モデル(関係の質→思考の質→行動の質→結果の質の順にサイクルを回すフレームワーク)」との出合いが転機となります。それまで利益を求めることを当然としていましたが、関係の質(人間関係)向上から取り組むことが会社の成長につながることを学び、イチ営業社員から会社全体に目を配る経営者へと意識が変化していきました。

その後、経営指針セミナーを受講し、2021年に初の指針発表会を開催。将来の抱負を宣言するも社内の反応は冷ややかでした。屋根工事の際には足場の設置が義務づけられますが、コスト削減を理由に足場を組まない現場もあり、野々村氏はそれを黙認していました。そうした姿勢は自ら掲げた経営理念と乖離しており、矛盾を感じた社員たちは不信感を募らせていました。「指針作成後もなかなか会社が変わらなかった」と振り返りますが、他責にしていた自分自身の姿勢に気づき、社内の関係の質向上に取り組み始めます。

関係の質向上に向けて

現在は、総務を中心にさまざまな企画が展開しています。「大人の体力チェック」は、鍼灸師から食生活やトレーニングの指導を受けるというもの。定期的に人間ドックを受診する仕組みも設け、2025年に健康経営優良法人に認定されました。他にも全社員で「今年の漢字」を予想してプレゼントを贈ったり、社内で投票を行うフォトコンテストを開催したりと活動は多岐にわたり、それらは同社の広報誌に掲載して社外に情報発信しています。

また、個人面談を導入し、年間目標の設定と半年ごとの振り返りの場として年2回実施しています。当初は会社の不満しか出ず、まったく意見がない社員もいましたが、徐々に前向きな意見が出るようになりました。アプリを使った社長のスケジュールの見える化など、社員の提案から実現した内容も増えています。さらに、月に1度の全体会議では毎回テーマを設定してグループディスカッションを実施。「能動的な社員が増えて自走可能な組織になってきた」と話す通り、経営者が社員の声に耳を傾けることで、受け身で仕事をしていた社員たちに変化が表れています。

子どもを入社させたくなる会社に

約3年前から新卒採用に取り組んでおり、経営理念や社長の思いに共感して入社した若手社員が増えています。社内では「後輩に教えたい」「みんなで育てよう」という意識が芽生え、フレッシュな人材が入ることで新たな挑戦に取り組む風土も醸成されていると言います。残業時間が少ないことも同社の特徴の1つ。年間休日数の見直しを行い、繁忙期以外は週休2日にするなど労働条件の見直しにも着手しています。

また、現在取り掛かっているのが10年ビジョンの作成です。社員たちからは、10年後のありたい姿として「いい会社で働いてるねと言われる会社」「自分の子どもを入社させたい会社」など前向きな意見が出されています。ビジョンには、SDGsになぞらえた「日本いぶしの7つの目標」(働くマインド、地域貢献など)を掲載。社員がデザインしたピクトグラムを採用して、目標をビジュアル化しています。野々村氏は「売り上げを向上させて自社の知名度向上を図るとともに、労働条件もさらに高めていきたい。働きやすい職場づくりを進めて、やりがいを感じながら働いてほしい」と語ります。

野々村氏は同社を「屋根総合工事業」と定義し、屋根を入口とした快適な空間の提供をめざしています。徹底しているのは、誠実な仕事で地域に貢献すること。「人生を過ごす場所に誠実に、確実に工事します」を合言葉に、次の100年に向けて突き進んでいます。

会社概要

設立:1986年
社員数:27名
事業内容:社寺仏閣・一般住宅の屋根工事、壁・樋板金工事、太陽光発電設置工事
URL:http://www.nihon-ibushikawara.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 3月 15日号より