新時代を切り拓く中小企業環境変化を追い風に変える経営戦略~多様な人材と〝つながり〞が生む組織の成長~(株)ミカド交設 代表取締役 吉野 一彦氏(山口)

連載『新時代を切り拓く中小企業』では、目まぐるしく変化する時代にあってもチャレンジを続ける企業を紹介します。第26回は(株)ミカド交設(吉野一彦代表取締役、山口同友会会員)の取り組みです。

ミカド交設は、法面(のりめん)保護や橋梁(きょうりょう)補修など社会インフラの維持・施工を担う企業です。吉野氏は大手情報処理会社から、父の体調不良を機に22年前に同社へ入社。当時は公共工事依存で価格決定権や差別化が難しく、経費削減でしか利益を出せない構造で、「言われたことだけをやる」文化や連携の希薄さ、忙しさの偏りなど、一体感に乏しい組織でした。

環境変化に対応した経営改革

さらに「コンクリートから人へ」の政策転換やリーマンショックで受注は激減し、7カ月ゼロという危機に直面。同業の約3割が廃業する中、給与カットや副業でしのぐ日々が続きました。しかし、東日本大震災の復旧現場を見て、「公共工事は人命を守る仕事」と実感。その後、インフラ老朽化や国土強靭(きょうじん)化政策で需要は回復しますが、人材確保が課題となり、「採用と定着ができなければ会社は続かない」と経営の見直しを始めます。「強靭な経営体質」を掲げ、「人が入り、定着し、育つ会社」をめざす方針へと転換しました。

第1に自社施工(内製化)への転換で外注依存から脱却し、利益率を10~15%から25~40%へ改善。第2に多能工化で複数業務を担う体制を整え、閑散期の固定費を抑制。第3に年間休日120日や有給取得率90%超、決算賞与など労働環境を整備し、「人が集まり定着する会社」へと変化していきました。

障害者雇用がもたらした組織変革

並行して障害者雇用にも着手しました。契機は同業の(株)オグネット(大分同友会会員)で知的障害のある社員が戦力となっている事例を学んだことでした。「自社でもできる」と考え挑戦を決意。当初は現場から不安の声もありましたが、採用判断を作業班に任せ、特別支援学校の実習で理解を深めました。

また専門家の助言で業務を細分化し、「できること」と「できないこと」を明確化しました。「できることを最大限に生かす」ことを重視した結果、特性に応じた配置により生産性が向上。視覚・発達障害のある社員は環境調整でCAD図面作成や売り上げ管理で活躍し、知的・精神障害のある社員も、写真付き手順書などを活用することで現場の戦力となっています。

これらの取り組みで、多能工化が進み、3年で一人前に育つ人材も出てきました。月平均残業は21・2時間から3・4時間へ大幅減となり、利益や純資産も着実に伸長。さらに「できないのが当たり前」という前提のもと、社員同士が「どうすればできるか」を考えるようになり、強みを生かし合う組織へ進化しました。

卓球で広がるつながり

採用面では、従来のハローワーク中心では人が集まらなくなったことから、吉野氏は趣味の卓球を通じた人脈から採用を開始。この経験から「人は求人票ではなく“つながり”から入ってくる」と実感しました。

転機は社屋の建て替え時に、補助金を活用し社内に「人が集まる場」として卓球場を設置したことです。卓球場では地域の子どもたちに指導を行い、保護者も来社することで会社の雰囲気や社長・社員の姿を自然に知ってもらう機会が生まれます。こうした接点が積み重なり、「安心できる会社」という信頼が形成され、将来的な就職先として意識される“時間をかけた採用”につながっています。

さらに学校部活動の縮小を背景に地域クラブとしての役割も担い、子どもたちに成長の場を提供しています。企業が地域の教育機能を補完するかたちです。

その結果、新卒採用に加えてリファラル採用が増加。企業理解が深い人材が集まるためミスマッチが少なく、定着率向上にも寄与しています。「卓球」という特徴により、「卓球場がある会社」「地域に貢献する会社」として認知され、建設業の中でも差別化された魅力を発揮しています。「採用」「地域との関係づくり」「企業ブランディング」を一体化した施策です。

今後の展望

今後は卓球場を発展させ、合宿や交流試合に対応するため、宿泊や食事を含めた受け入れ体制を整え、遠方チームの誘致をめざしています。

また、建設業の書類作成業務の受託など新事業も検討しており、将来の現場作業制限を見据え、デスクワーク需要に対応したいと考えています。この業務を障害のある社員が担う仕組みを構築し、雇用創出と事業化の両立を図ります。さらに地域ごとの繁忙期の違いを生かし、全国で業務を融通するネットワーク構想も進めています。

ミカド交設は人口減少などの環境変化を前提に、その中で成立するビジネスを構築し、変化を機会と捉えています。人を中心とした経営により、建設業の枠を超えた持続可能なモデル確立をめざし、人が集まり育ち地域とつながる循環の創出を成長の鍵としています。

会社概要

設立:1978年
従業員数:26名
事業内容:法面保護工事、交通安全施設工事、構造物メンテナンス工事など
URL:https://www.mikado-kousetsu.jp/

「中小企業家しんぶん」 2026年 4月 25日号より