【DORの眼】
会長「談話」と中小企業、同友会 
慶應義塾大学名誉教授 中同協企業環境研究センター座長 植田 浩史

中同協企業環境研究センター(略称:研究センター)では、全国の同友会会員企業の協力の下、年4回「同友会景況調査(DOR)」を実施しています。その報告書には、研究センター委員が執筆を担当するコラム「DORの眼」が掲載されています。今回は、その「DORの眼」より、DOR第157号(4月30日発表)に掲載された「会長「談話」と中小企業、同友会」を紹介します。

 2026年、広浜泰久・中小企業家同友会全国協議会(中同協)会長による 2つの会長談話と連合の芳野会長との共同談話が発表されました。会長談話は、アメリカによるベネズエラへの武力攻撃に対し「国連憲章・国際法に基づく平和的な問題解決を」(1月9日)、アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃について「軍事紛争の早期終結と国際秩序の回復を」(3月6日)の2つで、それぞれ事態発生の直後に出されました。また、春闘の山場を越えた 3月24日には、連合の芳野会長とともに「中小・小規模事業者の公正取引と持続的に物価を上回る賃上げができる環境整備に向けた共同談話」が発表されました。

 よく知られているように、現在の中小企業家同友会の礎は、第2次世界大戦後の混乱の中で始まった中小企業運動でした。戦争中の統制経済に苦しんだ多くの中小企業が当時共有していたのは「中小企業は平和な社会でのみ繁栄を続けることができる」という思いでした。1957年の東京を始め、全国で誕生した同友会にもこうした理念は引き継がれました。今日でも平和を大切にする理念は中同協総会で確認され、「中小企業の経営を守り安定させ、日本経済の自主的・平和的な繁栄をめざす」ことが同友会活動の目的の1つとして重視されています。従来の国際秩序が崩れ、エネルギーなどの価格が高騰し、さらに物資不足をも引き起こすなど、中小企業の経営環境を大きく動揺させかねない最近の状況において、中小企業の立場から平和と国際秩序を求めるメッセージは貴重なものとなっています。また、春闘の結果、大手企業の賃上げが進む一方、物価上昇により実質賃上げがなかなか実現できないなか、「中小受託取引適正化法(取適法)」施行をきっかけに中小企業の賃上げ実現に向けた環境整備を強く訴えた、連合会長との共同談話も力強いものでした。「労使見解」の存在と実践、自立的・自律的な中小企業づくり、国民や地域とともに歩む中小企業づくり、そして連合などとの長年にわたる協働の蓄積が、共同談話に結び付いていきました。

 こうした談話は、同友会会員はもちろん、国内の多くの中小企業や中小企業経営者が望んでいることです。会長談話は日本経済の多くを占める中小企業の思いを代表しています。同友会が一貫して追求してきた中小企業の立場からの発想、「自主・民主・連帯」、人間性・科学性・社会性の追求による経営と運動の実勢の積み重ねが、こうした談話によるメッセージにつながっています。

 談話が相次いで発表されるというのは、時代環境として決していい状態とは言えません。しかし、こうした時代だからこそ、談話に込められた同友会の理念や思いをあらためて受け止めるとともに、こうした時代に対応した中小企業づくりも同時に考えていくのが同友会です。今回のDOR で示したように、予断を許さない状況ですが、それだけに同友会の学びを生かし、変転する経営環境をしっかり見つめ、真摯(しんし)に経営に向き合い、道を切り拓いていただきたいと思います。

*DOR157号報告は下記のURLからご覧いただけます。
https://policy.doyu.jp/research_cat/dor/

「中小企業家しんぶん」 2026年 5月 5日号より