連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第34回は、(株)博多印刷(白石雄士代表取締役、田口堅一取締役工場長、福岡同友会会員)の取り組みです。
CSRとは
CSRとは、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)の略ですが、地域の清掃活動や寄付、ボランティア活動といった慈善事業を真っ先に思い浮かべるような誤解がまん延しています。これらは不正解ではありませんが、あくまでCSRの1種に過ぎません。
本来のCSRとは、法令遵守や環境配慮、人権尊重などを通じて顧客や社員、地域社会といったステークホルダー(利害関係者)に対する責任を果たす一方で、企業が存続可能な利益を確保することです。つまり、「社会的意義」と「経営的意味」の両方から成り立ち、社会的意義の達成によって経営的意味が達成されるという連関の下にあります。
博多印刷では、CSRを自社の存続や持続可能な経営に欠かせない「戦略的な経営そのもの」として取り組みを進めています。
人・材料・プロセス、ものづくりが一変する
博多印刷が採用する刷版は、ECO3の「Azura(アズーラ)」です。最大の特徴は現像処理を完全に排除し、廃液を含む製版関連ケミカルを極小化する点です。印刷機パウダー、化学液使用量を従来比50%以下まで落とし、平版消耗品の費用も51万1892円から24万9520円と半減できました。この指標を社内公表することで、社員からより具体的な改善提案や目標策定が主体的に生まれています。
もう1つは、製本用ののり材を従来のEVA系からPUR系(反応性ポリウレタン系樹脂)へ切り替えています。高い接着力を持ちながら、本の背を切断せずにリサイクルできるため、古紙リサイクル適性で最高位のAランクに分類されます。また、低温接着により製造時のCO2発生量も抑えられます。この環境適性が評価され、カーボン・ニュートラルをめざす大手上場企業の発行書籍で指名買い需要を取り込んでいます。
とはいえ、このPURのりの材料費はEVAのりのほぼ倍です。これを価格転嫁しようとすると、価格競争の点で採用を見送られる現実が立ちはだかります。印刷業界は官公需の入札制度に代表される「価格最優先」の強い逆風下にあります。能動的環境改善と1円・2円のコスト増が同じてんびんに乗る現状を自社単独で変えることは困難です。私たちはCSRを中核的価値とし、商品開発による「受注産業・下請構造からの脱却」と、地元地域の課題に取り組む「ソーシャルサービスの事業化」という2つの柱を自ら確立しなければなりません。
CSRが第4の勝ち(価値)軸―ローカル・ゼブラ企業をめざす
博多印刷の創業は1945年、積極的な設備導入で「絶対に断らない印刷会社」としてのポジションを築き上げ、得意先からは「博多さん」の愛称で親しまれています。現在の同社は印刷事業、クロスメディア事業、BPO事業の3本柱で獲得した収益で、2026年に多機能型就労支援事業所を開設しました。これは地域や自社の課題が「障害者福祉」というキーワードに帰結した自明の決断でした。
一方で、2026年4月に東京都のグリーン購入ガイドが改定され、入札要件に「グリーン・プリンティング認定」の取得が明記されました。環境問題に対する合理的配慮は、人々や社会からの要請ではなく、もはや法律的要件に近いものとなっています。同社は、ISO14001やプライバシーマーク、FSC認証など率先取得してきた各種認定・認証の統合運用を構造化する中で、自社らしく勝ち残るための価値基準を(1)環境、(2)品質、(3)雇用・労働安全、(4)財務・業績、(5)コンプライアンス、(6)情報セキュリティ、(7)社会貢献・地域志向の7項目に分類しました。独自の「CSR基準」として監査と改善を継続。その結果、約2万社存在する印刷業界でわずか19社しかない印刷業界の「CSR最上位認定企業」となりました(2026年4月現在)。
毎期掲げる「年間売上目標10%増」の背景には、従来の競争軸(価格・品質・納期)に加え、「CSR」という第4の価値軸を確立している社員の誇りと自信が「勝ち軸」となっています。採用面でも1名の枠に数十名の応募が届くようになり、平均年齢や在職年数などの指標も製造業の全国平均を上回ります。
CSRとは1000円の名刺が明日から2000円で売れるような単純なものではありません。社員が矜持(きょうじ)を持ち、顧客や地域に熱量高く向き合う組織文化の確立が企業の勝ち残りに不可欠です。同社は経営戦略的CSRが「人を生かす経営」につながると確信し、CSRを土台に、ソーシャルサービスと未来思考なものづくりによって、地域に確たる土俵を持つ「ローカル・ゼブラ企業」として存在することをめざします。
会社概要
創業:1945年
社員数:34名
事業内容:〈印刷事業〉販促用、事務用、雑誌・書籍、伝票・帳票、包装・パッケージ製品の印刷・製本後加工〈クロスメディア事業〉ホームページ・LP、動画・映像、グラフィックの制作、AR企画・開発〈BPO事業〉DM代行、企画設計・効果検証
URL:https://www.hakata-p.co.jp/
「中小企業家しんぶん」 2026年 9月 5日号より










