連載「今月の経営ヒント」労働基準法大改正のポイント(前編) 
社会保険労務士法人レイバーセクション 代表 藤浦 隆英氏(東京)

 経営環境が大きく変化する中、法改正や制度変更への的確な対応が求められています。新連載「今月の経営ヒント」では、同友会会員の専門家が、経営に役立つポイントを分かりやすく解説。第1回は「労働基準法大改正のポイント」(前編)です。

労働基準法をめぐり、働き方改革関連法の施行後5年の見直しが進んでいます。厚生労働省の研究会は2025年1月、今後の労働基準関係法制について報告書を公表しました。その後、2026年通常国会への法案提出はいったん見送られましたが、議論は終わっていません。2026年6月の政府の取りまとめでは、夏以降、労働政策審議会で議論する方針が示されています。

背景には、人手不足の深刻化と働き方の多様化があります。働き方改革では残業の「量」に上限を設けることが中心でした。次の改革では、健康を「守る」ことと、多様な働き方を「支える」ことをどう両立するかが焦点です。

中小企業への影響が大きいのは、まず「休ませ方」の規制強化です。具体的には、(1)13日を超える連続勤務の禁止、(2)勤務終了から次の勤務開始まで一定の休息を確保する勤務間インターバルの規制強化、(3)法定休日の事前特定、(4)勤務時間外の電話やメールへの対応ルールを定める「つながらない権利」などが示されました。人員が限られ、繁忙期や緊急対応を一部の社員に頼る企業ほど影響は大きくなります。このほか、2025年の研究会報告では、(5)一定の小規模事業場に残る週44時間特例の見直し、(6)年休取得時の賃金計算の見直し、(7)副業・兼業時の割増賃金計算における労働時間通算の見直し、(8)管理監督者の健康確保措置なども論点として挙げられました。

一方で、議論は規制強化だけではありません。高市首相は、心身の健康維持と働く本人の選択を前提に労働時間規制の緩和を検討する方針を示し、裁量労働制や変形労働時間制などの見直しを進めるよう指示しています。ただし、現行の時間外労働の上限規制は今も原則月45時間・年360時間等として法律で定められており、今回の方針も単純な「残業規制の撤廃」を決めたものではありません。健康確保や長時間労働防止を前提に、業務や本人の実情に合った制度を探る議論と見るべきでしょう。

ここで経営者として注意したいのは、法改正を「規制への対応」とだけ捉えないことです。「労使見解」は、厳しい環境の中でも企業を維持・発展させることを経営者の責任とし、そのためには社員の生活を保障し、自発性が発揮される状態をつくることが重要だとしています。

 同友会が進めてきた経営指針成文化運動も、理念や方針を文章にすること自体が目的ではなく、社員と共有し、全社的に実践して強い企業をつくることを重視してきました。働く環境はその実践を支える重要な経営課題です。

今回の法改正論議は、「どこまで働かせられるか」ではなく、「社員が力を発揮し、持続的に働ける会社をどうつくるか」を問い直す機会です。法令遵守は当然の出発点。その上で、経営指針に掲げる理念やビジョンと、実際の働く環境が一致しているか。まず経営者自身がそこを問われています。

(後編に続く)

〈プロフィール〉

藤浦 隆英(社会保険労務士法人レイバーセクション代表/特定社労士)
2012年社会保険労務士登録。中小企業向けに人事労務トラブル対応、就業規則作成、人事労務DD、手続き業務などを行う。東京都社会保険労務士会理事、中同協経営労働委員会副委員長、東京同友会理事。

「中小企業家しんぶん」 2026年 9月 5日号より