非上場株式の評価見直しの論点と事業承継税制

 非上場中小企業の株式評価について、政府で抜本的な見直しの議論が進んでいます。国税庁は今年4月、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を設置し、9月16日までに6回の議論を重ねています。現在の類似業種比準方式などについて、会社規模による評価の違いや、上場企業の株価を基準とすることの妥当性などを検討し、より企業の実態を反映した評価方法への見直しを進めています。

 その中で問題なのが、継続企業としての収益力を株式評価に反映する「残余利益方式」が議論されていることです。簿価純資産を基礎に、企業が株主の期待収益を上回って生み出す利益を加算して株式価値を算定する考え方で、過去の利益を基礎に一定期間の収益力を評価する方法などが検討されています。具体的な計算方法や還元率などは、まだ決定していません。

 企業の収益力を評価すること自体には合理性があるのかもしれませんが、事業承継の観点から見ると重大な問題があります。収益力が高く、健全な経営を続けている企業ほど株式評価額が高くなり、事業承継時の相続税・贈与税負担が重くなる可能性があるからです。一方、国税庁の試算では、現行方式より評価額が下がる企業も相当数あり、とりわけ小会社ではその割合が高くなる結果も示されています。

 つまり、今回の見直しは企業価値をより適切に評価しようとする一方で、結果として収益力を高め、適正な利益を確保し、事業を継続している企業ほど評価額が上がる可能性がある一方、収益力の低い企業は評価額が下がる可能性があるという構造です。これは、事業承継を促進する政策との関係で、大きな矛盾をはらんでいるのではないでしょうか。「よい会社をつくる」ことと「円滑に次の世代へ事業を引き継ぐ」ことが、税制上、逆方向に働くことになりかねません。

 そもそも非上場中小企業の株式には市場価格がありません。後継者が取得する株式は、上場株式のように市場で売却して納税資金を確保できるものではなく、会社を経営し、社員の雇用を守り、地域で事業を続けるためのものです。企業価値が高いことを理由に、その承継に大きな税負担を課すことが、果たして中小企業の持続的発展につながるのでしょうか。

 中同協は、事業承継税制の抜本的見直しを求めています。政策要望では、事業承継者が猶予不適当となった場合のリスクが大きいことから、10年程度の一定期間の事業継続を条件として、納税猶予ではなく免除する制度の導入を提言しています。さらに、納税猶予制度に過度に依存するのではなく、事業継続を条件とした特別控除を創設し、相続税は現行基礎控除の3倍程度とすること、非親族承継の場合の非上場株式の贈与税について基礎控除を大幅に引き上げることも求めています。

 これは単に後継者の税負担を軽くするという問題ではありません。長年にわたり社員を雇用し、地域に仕事を生み、付加価値を高めてきた企業を、次の世代へつなぐための税制をどうつくるかという問題です。よい会社をつくる努力が、事業承継時の税負担によって不利に働くことのない税制が必要です。

 政府が非上場株式の評価方法を見直そうとしている今こそ、「企業価値をどう評価するか」だけでなく、「その評価を事業承継時の課税にどう結びつけるのか」を問い直す必要があります。人を生かす経営を実践し、地域に根を張る中小企業が、よい会社をつくったがゆえに事業承継で困難に直面することのないよう、事業継続を条件に税負担を軽減・免除する制度への転換が求められています。

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「中小企業家しんぶん」 2026年 10月 15日号より