社員教育・共同求人活動に対する同友会の考え方 
第12回共同求人・社員教育合同委員会問題提起

9月3~4日に開催された第12回共同求人・社員教育合同委員会では、梶谷俊介氏(社員教育)と川中英章氏(共同求人)の両委員長が問題提起を行いました。要旨を紹介します。

問題提起(1) 中同協社員教育委員長 梶谷 俊介氏

中同協社員教育委員会では、今の時代・情勢、活動に合わせた「同友会における社員教育」の文章を皆さんと共に深め、委員会の共通認識として作成をする予定です。今ある初代委員長の大久保さんが書かれた文章を深掘りし、残すべきものと時代変化に合わせて変えた方がよいものを議論して、自分たちのものにしていくことが重要だと考えています。大田堯先生は、「私の話を鵜呑(うの)みにするな。自分で考え直し、深く考えることが大切」と言われました。先人たちが残した文書の表面だけを読むのではなく、本質を読み取り、自分はどう考えるのかを深めていきたいと思っています。

同友会の根本は人間尊重の経営

同友会の根本は人間尊重の経営です。そして、全ての人が人間らしい暮らしができる環境や社会をつくることが大きな目的だと思います。そのために押さえておくべきなのは、人間とは何か、社会とは何かという問いからスタートすることです。

大田堯先生が人間の特色として言われたことは、「自主・民主・連帯」の精神と深く関係しています。まず、1人1人が違う存在であり、違うからこそ全員に固有の価値があること(民主)。次に、人間は自ら選び取って変わっていく存在であり、その気になったときに変わるのであって、誰もその人を変えることはできないこと(自主)。そして、関わり合いの中でしか生きられないことです(連帯)。難しい点は、違う者同士がどう関わり合うか。人間にも自己防衛本能があるため、攻撃されたら防衛し、時には相手を攻撃することもあります。この矛盾をどう克服し、企業としてどう「自主・民主・連帯」の精神を風土として落とし込めるかが非常に大きなテーマです。

社員の学習権を保障する

1985年、ユネスコは第4回国際成人教育会議で「学習権宣言」を採択し、学習の重要性を改めて提起しました。「学習権とは、読み書きの権利であり、問い続け、深く考える権利であり、想像し、創造する権利であり、自分自身の世界を読みとり、歴史をつづる権利であり、あらゆる教育の手だてを得る権利であり、個人的・集団的力量を発揮させる権利である」という6つの権利を提示し、「学習権を理解することは、今日の人類にとって決定的に重要な諸問題を解決するために、私たちがなしうる最善の貢献の1つなのである。学習権は基本的権利の1つとして捉えられなければならない。学習活動はあらゆる教育活動の中心に位置づけられ、人びとを、なりゆきまかせの客体から、自らの歴史をつくる主体に変えていくものである」と謳(うた)っています。企業においてもこの学習権を保障するという観点が重要で、社員に対してもすぐに答えを教えるのは深く考え、問い続ける権利を奪っているのかもしれません。

目的を明確に、ちがいを乗り越える

さて、同友会は組織経営を標榜(ひょうぼう)していますが、改めて企業とはどういう存在なのでしょうか。

私は、企業とは目的集団だと考えています。1人ではできないことを、複数の人間が集まって行動するのが組織です。違いを持った人同士が、組織が掲げる目的のもとに集まり、違いを生かすことによって1人ではできない目的が達成できるようになる。つまり、目的を明確に示し、共感する人に集まってもらうことが重要なのです。よって経営者が達成したい目的を表に出し、それが社員の人生の目的にもつながるかどうかが問われると思います。まさにそれが求人活動です。目的に共感した人間が集まった組織は非常に強いと思いますし、その下で経営者と社員が対等になれるのだろうと思います。

企業規模に関係なく、本当に達成したいものがあれば必ず誰かと関わる必要があります。事業目的がどれだけ社会の共感を得られるか、本当に社会に必要なものであれば自然と協力者が生まれて、企業の組織化につながります。

また、1人の人間がいかによりよい人生を生きていくかという観点も必要です。

社員の「生き方の目的」が会社の目的と重なり合うと、本当の力を発揮できるのではないでしょうか。逆に、自分の生き方と会社の目的が違うと思ったら、社員は会社を離れていくでしょう。しかし、他社の方がより自分の人生を生かせるという判断ですから、私たち経営者には喜んで送り出す度量も必要だと思います。

むしろ自分の生きる目的を見つけ、その達成のために別の組織に移ったり、起業したりすることは喜ぶべきことです。

地域への責任と誇りを

県の教育委員をしていたとき、学校の荒れやモンスターペアレントが問題となっていました。家庭教育の崩壊ということも言われましたが、これらの問題は企業経営者の責任も大きいと痛感しました。家庭教育ができないような環境に会社が社員を縛りつけていないか、ということです。経営者が自社のことだけを考えて、自分たちが暮らす地域に対する責任について意識を向けてこなかったのではないかとも感じました。中小企業憲章で謳われている通り、中小企業は社会の主役ですから、地域社会に対する責任があることへの自覚と誇りも必要です。

また、各同友会でも地域の学校とのキャリア教育が活発になってきていますが、子どもたちも社会を構成する主体者として認め、私たちも彼らの思いから学ぶことが必要だと思いますし、会社の中でも若手社員からどれだけ学んでいるのかも問われています。

働き方改革で休日数増加や残業削減が叫ばれる中では、職場と家庭、そして地域の3つのバランスを取ることが重要です。家庭や仕事以外の時間を使って自らが暮らす地域に関わり、自分たちで地域をよくしていく。そんなところから、本当の意味での民主や自主が生まれてくるのだと思います。わが社では、地域の防災イベントへの参加など、本業とは関係のない地域活動に会社として参加するという発想が出ています。組織の目的を共有した社員が、自分1人ではできないことに会社を使って取り組むという考え方です。自分のやりたいことと会社の目的が一緒だからこその、面白い取り組みだと思います。

全員が人生の経営者

共同求人と社員教育の運動は北海道同友会からスタートしました。両委員会の根幹は、いかに1人1人が自分の人生に責任を持ち、そしてよりよく生きていく人を育てるかだと思います。

私はよく学生に「皆さんは経営者ですか?」と聞きます。すべての人が自分の人生をどう生きていくかという観点で言うと、全員が自分の人生の経営者だと思うのです。ですから、社員に対しても、経営者自身も自身の人生をどう経営するのかという問いが必要で、必ず関わり合い、自ら選び、違いを生かす。自分とは何か、自社とは何か、自分の持ち味をどう生かすか。弱みをさらけ出し、助けを求めながら、経営者と社員が、あてにし、あてにされる環境をつくっていくことが大切なのです。

 改めて、1人1人がどう生きるのかにスポットを当て、理念や目的を共有することで、違いを認め合いながら生かし合える関係をつくっていくことが必要だと思います。

 生成AIの台頭など、急速に技術発展が進んでいるときこそ、人間とは何か、社会とは何か、人間と人間の関係、人間と社会との関係、人間と自然との関係、それらの本質を問うことが必要だと思います。人間らしい暮らしをつくるという同友会の本質は、世界の中心になりつつあります。そんな観点から今後の共同求人や社員教育を考えていきたいと思います。

問題提起(2) 中同協共同求人委員長 川中 英章氏

私は、人間尊重経営の実践とは1人1人の違いを生かして活躍の場をつくること、つまり受け皿づくりだと考えています。どのような人を採用したとしても、その人の個性に合わせ、働き方をアレンジし、みんなが働きやすい環境をつくれるのが中小企業のよさだと思います。

社員からさまざまな要望も出されますが、それに応えられるよう努力しているのが中小企業で、お互いに信頼し合える関係をつくることが受け皿づくりです。

求人活動の観点では、そうした社風や企業文化を感じてもらうことが大事です。

学生との出会いが減っているのは事実ですが、ゼロではありません。わずかな時間でも、経営者が思いや自社の誇り、あるいは働きがいを伝え、「自分が働いている姿が想像できる」と感じてもらえること。そして、この会社で働きたいと思われる企業をめざすのが共同求人の根幹です。決してイベントに学生を集めることが委員会の目的ではありません。

3位一体の重要性

企業が若者を選べる時代ではなくなり、「両目を瞑って採用した」という経験がある方もいると思います。

学校の要請に応えて採用したのに、新入社員研修が終わったら退職されてしまい離職率が高くなったという酷い話もあります。それでも採用を続け、会社の担い手になるよう育てていくのが、同友会がめざす姿だと思います。そうした地道な活動を通して学校や行政などとの信頼を築き、同友会企業は違うという信頼を得て、学内の場所や講義をいただけて発信ができています。ですから、日頃からいかに信用される活動をしているか、そして苦しみながらも前に進んでいる姿を見せるかが大切なのだと思います。

 私は、人間とその他の動物の違いは「夢を見る力」だと思っています。動物も寝るときに夢を見ますが、それは過去の思い出です。人間だけが空を飛んだり、見たこともないごちそうを食べたりする夢を見ます。ですから、夢見る力こそが「人間らしく生きる」ことだと思います。企業においての夢は、10年ビジョンです。10年で必ず達成してみせるという強い覚悟、まさに誇りをいかに発信し、それに共感する仲間を増やすか。つまり、経営指針と採用、そして社員教育を一体として考えなくてはいけません。自社の誇りや働きがいを経営指針で成文化し、仲間を募るツールと捉えて発信し、実践しながら深めていくのが社員教育です。指針書を引き出しにしまっていたのでは仲間は増えません。

 大きな会社をめざすべきだとは考えていませんが、世の中のためになる事業をしているなら、より多くの人を幸せにするべきです。会社の価値が高まり、役割が増えてくると必ず仲間が必要になります。「採用するつもりはないから共同求人は関係ない」とよく聞きますが、それは自社の存在価値向上を考えていないということになり、経営が単に生活の手段になっているのです。提供している商品・サービスをそのまま10年後も提供すると言っていては、顧客は離れていき、やがて生活も成り立たなくなるでしょう。自社の存在価値を高めた結果として採用が必要となり、採用すると社員教育も必要となる、こうしたセットメニューだと理解してほしいです。

命を燃やし、未来を語る

AIには夢や未来は語れません。未来を示すことも人間らしさの1つです。近年は離職率が非常に高くなり、高卒も大卒もほぼ同じ35%程度の離職率で推移しています。中小企業に就職する人は、大企業並みの福利厚生がすぐに手に入るとは思っていませんので、それが原因で離職している可能性は低いと思います。最大の離職理由は「未来が見えないこと」です。人間関係を理由とした退職は初期の段階であり、5~6年目の社員が辞めるのは未来が見えないからです。そのためには、会社が進む方向や働きがい、どんな技術が身に付き、その技術を生かしてどのような活躍ができるのかを示すことが大切です。

それは、社員が堂々と自分の意見を言える風土づくりでもあり、スキルと共に社員の人格づくりにつながる社員教育でもあります。さらに、自社がどんな価値を作るために命を燃やしているのか、そして誇りにしているのかをしっかり問うべきです。そうした姿を発信すれば、必ず共感してくれる若者がいます。仲間に加えながら、さらに価値を高めていくことがとても大切です。委員長の皆さんには、そうした姿を自県の会員にも魅(み)せてほしいと思います。

多くの学生が集まる地域とそうでない地域がありますが、若者たちはいつか故郷に帰ることも念頭に置いています。ですから、子どものうちに故郷でたくさん思い出をつくり、誇りや働きがいのある企業があったことを記憶に留めてもらい地元を離れてもらうことが必要だと思います。わが社の社員も、仕事で東京に来ると「東京で働きたい!」と言ったりします。たくさんお店があり、楽しそうな声が聞こえてきて、電車でどこへでも行ける。確かに刺激的で楽しいですから、「東京に行くな」というのは難しいでしょう。少子化が進んで憧れの大学にも比較的入りやすくなり、4年間の学生生活を送ると東京の会社しか見えなくなってそのまま就職する、そんな流れになっています。

しかし、東京の中小企業が採用できているかというと、そんなことはありません。中小企業はどこでも地方です。それでも採用できている会社はあるということを認めてほしいのです。その違いは、条件で釣っているか、内容で握手しているかです。どれだけ年間休日数や有給取得率などの条件面を保証しても、それを提示されて入社した社員にとっては当然のことであり、会社の価値だとは思ってもらえないのです。

そして、社員には積極的に外の世界を見せてあげましょう。例えば同友会に社員と共に参加し、他社の取り組みから自社の至らない点に早く気づかせることで、知ったからこそ欲しくなり、自社もこんな風にしたいと思うようになる。そして、欲しいものを手に入れる努力ができる。これが学習権の発揮だと思います。

そういう会社になって初めて、仲間に入りたいと思われるのではないでしょうか。

自ら幸せのリーダーシップの発揮を

最低賃金や物価が上昇し続け、中小企業も懸命に努力を続けています。

そうした中、時間がかかっても本物の製品・サービスを提供できるプロを育てるのか、中途半端な商品を安売りしようとするのか、経営者の姿勢が問われています。採用しなければ初任給を気にしなくて済みます。

「新卒採用はコストだ」という意見も多く聞きますが、それは既存社員を失いたくない気持ちと、若い社員が欲しいという気持ちの板挟みが嫌だからで、どちらかを捨てれば楽になるという話になりがちです。

しかし、いかに小集団であっても自社の価値を社員と一緒に考えること、つまり社員を経営に参画させることが究極の社員教育です。

そして、自社がどんな価値を生み出しているのか、社員がどれだけ立派に働いているかを発信することで、必ず教育機関の人たちにも伝わります。ワークキャリアだけでなくライフキャリアの観点も重要です。地域での生活のあり方までを示しながら突破口をつくるべきで、それが共同求人・社員教育委員会が全国で活動している意味だと思います。

特に共同求人委員長の皆さんには、自ら率先して幸せになって魅せること、つまり「幸せのリーダーシップ」を発揮してほしいと思います。共同求人は委員長職が不人気で、引き継ぎもないまま交代していることも多く、なかなか議論が深まりません。

ぜひ、共同求人の学びで自社が変革した経験を地域の経営者に発信しながら、行政や学校などからの信頼も高めていきたいと思います。そして、立派に成長した社員の姿を見て、自分も同友会に入ってあんな会社にしたいと言われるような環境をつくりたいと思います。それが、全ての人がよりよく生きられる社会につながる、社会教育運動なのではないでしょうか。

「中小企業家しんぶん」 2026年 10月 15日号より