経営環境が大きく変化する中、法改正や制度変更への的確な対応が求められています。新連載「今月の経営ヒント」では、同友会会員の専門家が、経営に役立つポイントを分かりやすく解説。第3回は「社長が知るべきAI経営戦略」(前編)です。
「AIを入れれば仕事が変わる」。そう期待する経営者は少なくありませんが、AIは魔法の道具ではありません。経営としてどう位置づけるかで仕事は大きく変わります。
商工中金が今年3月に公表した調査(今年1月実施、有効回答3892社)では、生成AIについて「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」企業が64・9%と最多でした※1。一方、会社として導入した企業は、個人利用を推奨するだけの企業より、経営へのプラス効果を感じる割合が10ポイント以上高いという結果も出ているようです※1。成果を分けるのはツールの性能ではなく、経営としての意思決定です。政府が7月に閣議決定した第Ⅱ期人工知能基本計画も、AIを前提に意思決定や業務の進め方を根底から見直す「AX」を掲げ、中堅・中小企業への実装を明記しました※2。
AIは、指示が曖昧なら答えも曖昧になります。自社の強みや方針を言葉にできている会社ほど、自社らしい答えが返ってきます。同友会の経営指針の成文化は、AI時代にこそ生きる土台と私は考えています。
その上で、AIに対するリスクに向き合う必要があります。まず警戒すべきなのは、会社が認めていない無料のAIを社員が個人の判断で業務に使う「シャドーAI」です。私が京都同友会の京都オープンでAI活用について報告した際のアンケート(回答135名)でも、39%が「無料版を各自で利用」と答えました※7。個人情報については、個人情報保護委員会が、入力が利用目的の範囲内かを確認すること、本人の同意なく入力した個人データが応答以外の目的で扱われれば法違反の可能性があることを注意喚起しています※3。また著作権については文化庁が、AI生成物の公表や販売も通常と同じ基準で判断し、既存の著作物との「類似性」と「依拠性」が認められれば侵害になるとの考え方を示しています※4。誤情報(ハルシネーション)も深刻です。カナダでは航空会社のチャットボットの誤案内について、現地の民事紛争解決審判所が、正確性への合理的な注意を怠ったとして会社に賠償を命じました※5。AIの誤りは、使った会社の信用問題になります。
では全面禁止すればよいかというと、逆効果だと私は考えています。今の時代AIは当たり前でこの勢いは止められません。社員はAIをスマホなどにインストールしたり、無料版にアクセスして使用したりして、会社の信用問題に危険性を与えます。経営者として取るべき対応は3つです。
(1)学習に使われない設定の法人プランを「1つだけ」導入する。
(2)AI運用のルールを策定し、入力してはいけない情報、使ってよいツールを明らかにする。
(3)月1回15分の「AI活用共有会」で、よい使い方を広げ、危ない使い方を早めに見つける。
このように、会社で「禁止」するよりも「見える化」することが必要です。
また、国も今年3月に「AI事業者ガイドライン」を改定し、これから取り組む事業者向けの手引きを公開しています※6。ぜひ参考にしてみてください。
(後編に続く)
〈出典〉
※1 商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」(2026年3月公表)
※2 第Ⅱ期人工知能基本計画(2026年7月14日閣議決定
※3 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月)
※4 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)
※5 offatt v. Air Canada, 2024 BCCRT 149(カナダ・ブリティッシュコロンビア州民事紛争解決審判所、2024年2月14日決定、CanLIIで原文確認)
※6 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月)
※7 株式会社ハマ企画「中小企業経営者のAI活用入門|160名と考えた実践論」
会社概要
設立年:1981年
社員数:役員2名/正社員 2名/契約社員 1名/AI社員3名/外部パートナー6名
事業内容:AI/マーケティング/障害者ウェブ支援/メディア運営
URL:https://hamakikaku.co.jp/
「中小企業家しんぶん」 2026年 11月 5日号より










