中同協女性部連絡会内に設置した「経済のジェンダーギャップに関する研究グループ」(リーダー、橋本昌子氏)は、2024年12月から2026年7月まで9回の会議を重ね、その成果を活動報告書としてまとめました。男女間賃金格差を入口に、企業内の配置や育成、評価、登用、働き方を見直し、人を生かす経営と地域の持続可能性につなげることをめざしたものです。会員役員へのアンケート、オンラインセミナー、定時総会分科会を通じて、日々の経営に潜む「見えない差」を考えてきました。
「差がない」を確かめる
2025年6~7月に実施した「21世紀型中小企業づくりアンケート」には、中同協役員など129人が回答しました。「男女の賃金差がある」と回答した人は14%でしたが、「職種配置に性別の偏りがある」は45%、「女性管理職が30%未満」は52%でした(図1)。
同じ賃金表を使っていても、担当する仕事や経験、役職が異なれば、賃金差は生じます。給与規程を確認するだけでなく、昇進につながる仕事を誰に任せ、誰に経験を積む機会を用意しているかを振り返る必要があります。例えば、家庭事情を推測して重要な仕事を任せなかったり、本人の希望を聞かずに営業や技術の仕事から外したりすることはないでしょうか。善意の配慮が、挑戦や成長の機会を狭める場合もあります。
今回の調査は、仕事の任せ方や育成・登用の機会に偏りがないか、自社で「当たり前」としてきたことを見直すきっかけとなりました。
自由記述には、人権や無意識の思い込みについて学びたいとの声があるほか、性別は関係ない、過度な配慮は逆差別になりうる、といった意見もありました。研究グループでは、こうした受け止め方の違いも踏まえ、採用や定着、業務分担など、具体的な経営課題に即して対話することを重視しました。
経験を任せ、力を引き出す
こうした課題を具体的な経営場面から考えるため、2026年4月15日にオンラインセミナーを開催し、158人が参加しました。
全国信用金庫協会の斎藤裕樹氏は、定期的な「女性活躍推進見える化調査」や、女性職員の職域拡大に向けた事例紹介などの取り組みを報告しました。全信協では、配属や役職などの男女差を把握し、調査結果や実践事例を各信用金庫に共有してきました。こうした取り組みを重ねる中で、信用金庫業界の女性管理職比率は2014年度の3・5%から2023年度には8・9%に上昇しています。継続的に現状を把握し、育成や登用の見直しにつなげることの大切さを学びました。
(株)吉村の橋本久美子氏(東京同友会)は、両立支援の制度を増やす段階から社員の主体性を尊重し、事業を任せる経営へと変化した過程を報告しました。本人の意思を確かめ、理念と数字の両方に責任を持つ役割を託す中で、女性社員が主体となる新規事業が育ってきました。
働きやすい環境を整えるとともに、1人1人の希望を聞き、挑戦を支えること。その両方が、人材の力を引き出す上で大切だと確認しました。
7月9日の第58回定時総会in静岡の第9分科会には102人が参加し、研究成果を企業実践に重ねて考えました。(株)スパーテルの橋本昌子氏(石川同友会)は、配置や経験、登用のあり方を問い直すことと、地域の人材確保を結びつけて問題提起しました。(有)ウメイチの梅田益生氏(岐阜同友会)は、短時間正社員や柔軟な働き方、男女共通のキャリア設計などを、採用・育成・定着を図る経営戦略として紹介しました。女性の多い職場でも、扶養手当の設計や結婚・出産後の働き方などに「当たり前」とされてきた前提があり、それらを問い直してきたことが報告されました。信幸プロテック(株)の村松直子氏(岩手同友会)は、社員自身が業務の重複や負担を見える化し、手順書やスキルマップの作成、現場同行などを進めた実践を報告しました。時間外労働は約25%減少し、売り上げや利益も伸びたといいます。管理部門も補助的な役割から、会社の仕組みをつくるパートナーへと変わりました。
地域で働く選択肢を広げる
企業のあり方は、若者が地域で働き、暮らす選択にも関わります。報告書では、2025年の20代人口の社会増減率を再集計し、47都道府県のうち37の道府県で女性の値が男性を下回ったことを示しています。女性の転出超過が男性より大きい場合に加え、転入超過が男性より小さい場合も含み、地域ごとの状況を丁寧に見る必要があります。
また、東京圏以外の出身で、現在は東京圏に住み、自分の都合で出身地域を離れた人を対象とする内閣府調査では、女性の42・1%が「希望する進学先が少なかった」、27・4%が「やりたい仕事や就職先が少なかった」と回答しています(図2)。


これらのデータだけで人口移動の原因を断定することはできません。しかし、地域にどのような仕事があり、能力や経験を生かして成長できるかは、企業経営と地域の将来を考える上で欠かせない視点です。地域に残ることも、戻ることも魅力的な選択となる企業を増やすことが求められます。
6つの視点を、同友会全体の実践へ
研究グループは、一連の活動を通じて、企業経営と同友会活動に生かす6つの視点を整理しました。
第1に、賃金差が生まれる過程を見ること。賃金差は、採用や配置、経験、評価、昇進などの違いが積み重なって表れます。その背景をたどることで、見直すべき経営課題が明確になります。
第2に、平等という認識と、実際の機会の平等を確かめること。同じ規程や評価制度があっても、仕事の任せ方や育成の機会に偏りがないかを確認する必要があります。
第3に、配慮と主体性を両立させること。柔軟な働き方を支えるとともに、本人の意思や成長への希望を確かめ、挑戦と責任ある役割を担う機会を保障することが大切です。
第4に、対話できる文化を育てること。制度を整えるだけでなく、社員が違和感や希望を伝え、周囲の負担も含めて話し合い、改善に参加できる関係づくりが求められます。
第5に、女性の社会参画と男性の生活参画を一体で考えること。男性の家事・育児・介護への参画と、長時間労働や特定の人に仕事が集中する働き方の見直しを併せて進める必要があります。
第6に、企業の変化を地域の選択肢の広がりにつなげること。多様な人が働き続け、挑戦できる企業を増やすことは、若者が地域で将来を描く可能性を広げ、地域経済の持続可能性にもつながります。
ジェンダーギャップの解消は、1人1人の力を生かし、人材の育成・定着や企業の持続的な発展につなげる経営戦略の1つです。今回の研究成果を共有し、今後も女性部だけでなく同友会全体の課題として学びを深め、各社の経営と同友会活動の実践につなげていきたいと考えています。
報告書の全文は下記URLからご覧いただけます。
https://drive.google.com/drive/folders/14nMxEQHbu0jQb01xKgbYSCB7l9Nz9CiT
「中小企業家しんぶん」 2026年 11月 5日号より










