中小企業憲章の討論素材に~ 『2005年版中小企業白書』を読んで

 今年の「中小企業白書」は、第一部「中小企業の動向」、第2部「経済構造変化と中小企業の経営革新等」、第3部「日本社会の活力と中小企業」の3部で構成。これまでは2部構成が多く、3部構成は5年ぶりで、バラエティーに富んだ構成になっています。

副題は「日本社会の構造変化と中小企業者の活力」

 今回の副題は、「日本社会の構造変化と中小企業者の活力」。90年代前半に良く使われたキーワード「構造変化」と、80年代に頻出した「活力」が復活。「活力」に込められた中小企業に期待される役割の強調はなつかしいフレーズ。内容はこれまでの白書で取り上げてきた課題をさらに掘り下げて分析し、文章末でまとめるという丁寧な叙述で好感が持てます。

 今回の白書では、次の5つの点で議論を深めたいと思いました。

 第1に、産業集積では集積のメリットが後退し、衰退しつつある集積地が少なくないと白書は分析していますが、集積地としての展望が描かれていません。1997年の「地域産業集積活性化法」で基盤的技術集積(A集積、25地域)、特定中小企業集積(B集積、162地域)を指定し、最近は産業クラスター計画など、経済産業省は総力あげて地域支援をしていますが、その効果は現れているのか否か、全く言及がありません。新しいネットワークづくりによる活性化の一般的な強調からは、産業集積地としての展望は容易には見えてきません。

 第2に、商店街問題では従来の「大規模店舗との共存共栄」などの表現が消え、大規模事業所の活発な参入と小規模事業所の衰退、厳しい競争が分析され、中心市街地の活性化策としてコンパクトなまちづくりが紹介されていることが興味深いところです。大型商業施設によるロードサイド型開発に対して、都市の外延化を抑制するコンパクトな都市づくりの意義を行政コストの試算などから論証しており、注目される指摘です。

 第3には、中小企業は女性や高齢者、若年層の雇用を通じた社会的貢献度が高いとしている点も注目されます。しかし、「大企業と中小企業で実質的な雇用構造に違いがあることは、『労働市場の二重構造』等の存在を意味するものでなく、大企業と中小企業のそれぞれの合理的な人材戦略の違いを反映するもの」としているのは論理の飛躍を感じます。雇用構造の違いを中小企業が選択可能な戦略問題に解消できるでしょうか。

 第4は、創業と自営業層の構造的停滞の要因を詳細に分析している点も読みどころです。90年代以降、開業が大きく減少し、開業の中核であった30~49歳層での低下が顕著で、日本の被雇用者のリスク回避志向が強まっているとの指摘は考えさせられます。

 第5には、白書の問題意識や分析が同友会の提唱する中小企業憲章(以下、憲章と略)の考え方と重なる部分があり、白書の不十分な面を補いながら憲章の議論の素材として活用できそうなこと。たとえば、中小企業の販路開拓などで、製品が優秀でも「企業の信用力が無い」等で大企業に比べ不利な扱いうける場合があることや、学生の意識調査では中小企業が就業の場として魅力が乏しいとされている実態などが指摘され、中小企業の「実態と可能性についての認識を国民の間で広く共有していくことも重要な課題」としており、憲章の主張と重なります。また、「中小企業の成長のためだけでなく、社会全体での従業者への教育の観点からも、中小企業における人材育成が活性化することが期待される」という考え方でも憲章に接近しています。

 今回の白書で画期的だったのは、中小企業庁のホームページに4月26日の発表日に全文掲載されたこと。従来は5月に政府刊行物として刊行され、しばらくしてホームページにアップされていました。情報公開に関する姿勢の変化の表れとして評価できます。

 しかし、中小企業庁が昨年9月に「中小企業実態基本調査」(調査企業10万社、有効回答約4万6000社)を実施し、今回の白書に調査結果を掲載するとしていましたが、付属統計資料の2つの表に使われているだけで、本文中には使用されていません。「幅広い業種を網羅した初の基本調査」と銘打って大規模に実施されているにもかかわらず、白書でその成果を生かせないのはまことに残念なこと。説明の欲しいところです。

 白書全体では、これまでの一般的で「同義語反復」のような記述が減り、よく検討された興味深い分析が散見されます。今後、問題提起的な論点が中小企業者との対話の中で深められることを期待します。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2005年 5月 15日号より