健全な地域社会と大型店問題 ~大型店過剰時代に芽生える草の根自治

 前2回の本欄では、大型店の出店と撤退の深刻な影響について考えましたが、今回は第3弾として大型店と地域・まちづくりについて考えたいと思います。

 内閣府が7月に発表した「地域再生に関する特別世論調査」によれば、自分の住んでいる地域が「元気がない」と回答した人が43.7%となり、「元気がある」の37.5%を上回る結果となりました。

 元気がない理由として、「子どもや若い人が減っている」59.2%、「商店街などの中心部のにぎわいがうすれている」50.9%、「地域を支える産業が衰退している」38.5%の順で多くなっています。地域の現状に対する国民の的確な認識を反映しています。

 注目されるのは、「地域が元気になるための活動に参加したいと思うか」との問いに、「参加したい」との答えが63.9%と、「参加したくない」21.3%の3倍に及んでいること。これを、地元経済の衰退に心を痛め、自分たちの地域を何とか元気にしたいという参加自治の潜在的エネルギーが高まっている、と読むことができないでしょうか。

 最近、『大型店とまちづくり』(岩波新書)という本が刊行されました。著者は矢作弘氏(大阪市立大学大学院教授)。本書の副題は、「規制進むアメリカ、模索する日本」。

 1990年代以降、欧米先進国は、大型店の立地を厳しく規制し、その開発を中心市街地に誘導する政策を強化。「しかし、日本はこの間、ただひとり時代の流れに逆行し、おそらく先進諸国の間では大型店がもっとも自由な国となった」と指摘します。

 日本では、売り上げが伸びなくなった店舗は即刻閉店し、閉鎖店舗を上回る数の新規出店を続けることによって企業全体としての収益を確保するチェーン経営が全盛です。

 儲かるところで儲かる間は商売を続けるが、ひとたび店舗効率が悪化すればたちまち閉店し、ほかに新しい店を出すという地域経済に全く責任を持たない体質。まさに、「焼畑農業」ならぬ「焼畑商業」と本書が呼ぶゆえんです。

 本書は、アメリカでの大型店紛争と立地規制の事例紹介が圧巻です。特に、世界のトップ企業となったウォルマートによる地域社会の「ウォルマート化」とそれに対する米国らしい草の根自治の対抗は興味深い内容。また、市場主義のイメージの強い米国でさまざまな規制が取り組まれていることにも驚かされます。

 米国では、大型店出店を制限・禁止する競争制限的な政策を、「地域社会の健康、安全、道徳、そして一般的福祉」のために不可欠であるという論理によって合法化しているとのこと。これは、日本でのまちづくり運動にも大切な視点を提供しています。

 本書は、青森県三沢市のイオン反対運動が、商業者だけでなく、PTAや消費者団体を含む地域ぐるみで断念させた事例を紹介し、ようやく日本でも「焼畑商業」の本質を見抜いた動きが出始めている、と強調しています。

 冒頭の世論調査で見たように、国民の地域に対する確かな目線と積極的な姿勢は、今後の地域づくりの可能性を予感させます。その意味では、地域循環型経済をめざすしっかりとした流れをつくる好機です。中小企業憲章を地域で取り組む課題でもあります。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2005年 8月 15日号より