中小企業経営の人間性と教育力に注目する白書~『2006年版中小企業白書』を読んで

 今回の『中小企業白書』(以下、白書)は、第一部「中小企業の動向」、第2部「東アジア経済との関係深化と中小企業の経営環境変化」、第3部「少子高齢化・人口減少社会における中小企業」の3部構成となっています。

 白書は、「今後数十年という日本社会の構造的変化が中小企業にもたらす意味を整理しておきたかった」という狙いから、第2部と第3部で、2つの大きな社会構造変化に対応する中小企業の発展方向を分析していますが、特に次のような興味深い分析が注目されます。

 1つは、経常利益が徐々に減少するなかで、「生き残り」をかけて海外進出を決意する企業が増えているとし、「シミュレーションの結果、1995年度に海外進出した企業の7年後の売上高経常利益率は6・5%となった一方、海外進出しなかった企業のそれは1・9%に留まった」と分析していることです。

 海外進出のリスク要因についても言及するものの、「販路拡大や経営の変化などの経営革新が起こり、結果的に国内での新たな成長に結びついている事例も多いことが見えた」と結論づけています。

 しかし、白書とほぼ同時に公表された経済産業省の『グローバル経済戦略』では、「留意すべきは、東アジアを中心に海外展開した中小企業のうち、1990年代後半から現地法人の移転・撤退が急増しており、2000年に入ってから更にこの傾向が加速化している」「グローバル展開を図った中小企業の趨勢は二極化の様相を呈している」と、白書とは整合性を欠く表現をしています。

 経済産業省内での検討を深めてもらいたいところですが、後者の失敗・撤退の分析があってこそ海外進出の全体像が見えてくるように思えます。

 2つ目の注目点は、「若年者の定着率がよい企業ほど業績が伸びている」という調査結果を指摘していることです。

 どのような取り組みが若年者の定着に効果があるのかを見たところ、成果型報酬など実力主義の導入や労働条件は定着率の高低には関係せず、「風通しの良い職場づくり」と「若年者を成長させるための取り組み」が効果的であると分析しているところが大いに注目されます。

 「共育」の考え方や、自由闊達(かったつ)な意思疎通のできる社風の確立など、同友会での取り組みを裏付ける調査結果と評価できます。

 3つ目の注目点は、大企業ほど育児休業休暇制度など制度の整備が進んでいるが、あまり利用されない状況があり、小さい企業の方が制度は設けずに柔軟に対応しており、仕事と育児を両立しやすいのが中小企業の特性である、と分析していることです。

 女性正社員の1人当たり子ども数や管理職に占める割合が、中小企業になるほど多いというデータも示しています。白書が、中小企業経営の人間性の要素に着目し、小さな組織の有効性を積極的に評価していることが注目されます。

 今回の白書の副題は、「『時代の節目』に立つ中小企業」。中小企業憲章の時代認識とも重なる視点でもあり、憲章学習にも白書を活用することが可能であると考えます。

 なお、44の事例の中に、同友会会員企業3社(オネストン(株)/愛知、(株)北海道バイオインダストリー/北海道、未来工業(株)/岐阜)が紹介されています。

(U)

*『2006年版中小企業白書』は4月28日に公表され、全文が中小企業庁のホームページで公開されています。書籍としても、5月下旬に発行の予定です。
中小企業庁ホームページ http://www.chusho.meti.go.jp/

「中小企業家しんぶん」 2006年 5月 15日号より