企業発展の鍵は失敗に学ぶ社風~同友会例会で「失敗」から学ぶ意義を考える

 たまたま目にした論文(石坂庸祐「エクセレント・カンパニー論の本質」『九州共立大学経済学部紀要』2006年3月)に興味を引かれました。本論文の結論を先回りして言うと、「エクセレント・カンパニー論」は、超優良企業の「成功方程式」を摘出した書というより、その本質は、むしろ長期的な成功のためには“失敗”が必要であり、またその失敗の「質」がきわめて重要な問題となりうることを強調した1種の「失敗学の書」と規定できるというものです。

 『エクセレント・カンパニー』や『ビジョナリーカンパニー』等の最大の共通点は、優秀企業を選別して調べ上げ、その「共通要因」としての特質を明らかにするという徹底した「帰納法」によって超優良企業を抽出するという方法論にありますが、それには限界があるとしています。

 事実、超優良企業が、必ずしもさらに継続して超優良たりえていない事例が少なからずあります。2002年2月の本欄では、「飛躍した企業の『成功の法則』とは何か」と題して『ビジョナリーカンパニー・2』を紹介していますが、当時、飛躍的な業績を上げていた11社の超優良企業が、5年経つと低迷している企業もでてきているようです。

 そこで、同書を失敗の視点から再読。すると、初めて読んだときには、「成功の法則」を導く論立てに意識が向いてしまい、失敗の意義と教訓を見逃していることに気づきました。超優良企業と対比して比較対象企業も豊富に紹介していますが、その失敗例が超優良企業の「引き立て役」にしか認識してなかったようです。

 もちろん、際限のない試行錯誤が許されるわけではありません。超優良企業は、試行や実験という「意味のある誤り」を重ねながら、「進化の種」を蒔(ま)き続ける社風が存在することに優位性があると考えられます。大きな危機に直面したからこそ、新たなビジネスモデルを生み出し、超優良企業への地盤を構築できた事例が数多くあります。

 「いかに成功するか」より「いかに失敗や危機から学ぶか」の方に着目することが重要になるわけです。まさに、同友会での本音の失敗経験から真摯(しんし)に学ぶというモットーに重なる発想です。結局は、万能の「成功の方程式」はないのではないか。一時的に成功したとしても、それを方程式の「正解」とすると、「成功体験」にすがりつくしかなくなるのではないでしょうか。

 逆に、失敗や危機のプロセスを追体験的に学ぶことは大いに意味があり、気づきを刺激します。同友会では、中小企業憲章学習のように経営環境の大きな流れを読み、ネガティブな情報をいち早く察知し、マイナスをプラスに転化できる「時代を味方につける」構えが必要であるという議論がされます。これは実践的には失敗を恐れず、「意味のある失敗」に挑戦し、見えなかった「失敗」や「危機」を発見し、対応する経営プロセスとも言い換えることができます。このような視点から、同友会での日常の学び合いに、さらに磨きをかけていきましょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2006年 7月 15日号より