「売れない時代」の決め手は「時間」~「時間の消費」に向かう日本社会

 今、日本の自動車産業は好調ですが、今年の中同協第38回定時総会議案は、「しかし一方、国内での販売台数(05年)は585万台と90年の4分の3。『景気が良くなってもクルマが売れない』という思わぬ事態に至っています。(中略)メーカー各社は国内販売体制の再構築に懸命ですが、成熟化した日本のモータリゼーションと家計購買力の衰退に直面しています」と分析しました。

 また、『日経ビジネス』8月7~14日号は、「なぜ売れない~高まる新製品リスク」と題して特集を組み、大手企業の「売れるはず」の主力商品が、まさかの売れ行き不振に陥っている様子を例示し、「市場の成熟化が進んだ今、トレンド便乗でヒット商品を生み出すことは極めて難しくなっている」と強調しています。

 消費の成熟化への対応は、中小企業にとっても重要なテーマ。この問題について、2003年の中同協第35回定時総会議案では次のような解明をしています。

 「『消費成熟時代』の消費者行動は、自分の好きなことや物には、金も時間も惜しみなく出費する反面、自分の望まないことや物については、金も時間もできるだけ節約したいと考え、生活必需品は低価格商品ですませる、また一方、豊富な買い物経験、知識があり、商品や商店を選択する基準は厳しい等の特徴があると言われています。このような消費者を相手に事業を展開する場合の経営戦略は、第1に消費者が惜しみなく対価を支払う商品・サービスをどのように演出するかです。第2は、消費者に代わって処理する、いわば『時間を売る』ことです。」

 この「時間を売る」という視点に関して、サービス化社会の競争軸は、最終的には時間の奪い合いになるという議論がマーケティング分野であります。顧客のもっている最終的な生活資源は、1日は24時間という限られた時間であり、限られた時間をもっと有効に活用してあげるための「ニッチタイム」探しに新たなビジネスのヒントがあるというわけです。たしかに、たとえば、駅の改札を通過すると携帯電話に周辺情報の配信をしたり、ワンセグ放送でスポーツの生中継を通勤時間に楽しめるなど、ニッチタイムへの提供サービスの開発にしのぎを削っている現状もあります。

 しかし、このような視点は、まだ時間の量的な側面にとらわれた発想です。広井良典氏(千葉大学教授)は、人間の消費は、物質の消費→エネルギーの消費→情報の消費という流れで展開し、現在はその先の「時間の消費」とも呼べる新たな方向に向かいつつあるという説を述べています(『持続可能な福祉社会』ちくま新書)。

 「『時間の消費』とは、それ自体が自己充足的であるような、コミュニティや自然、スピリチュアリティ、公共性といった領域に関する人間の欲求に対応するものであり、最終的には(市場経済における)『消費』という性格を超え出ていくものである」としています。これは、個人のライフスタイルにもつながる領域です。

 飽和、成熟の「売れない時代」に、自社の経営戦略を大きな歴史の流れの中で深く考えていくことが、いま求められています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2006年 9月 15日号より