ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実践で社員の力引き出す

 政府は少子化問題に取り組むための総合対策をまとめる「子どもと家族を応援する日本重点戦略検討会議」をこの2月に新設しました。会議では首相の持論である「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)を重視し、財源を含めた具体策を打ち出すと報じられています。では「ワーク・ライフ・バランス」とは何でしょう。日本ではどのように考えられているのでしょうか。内閣府男女共同参画局や厚生労働省の関連する調査などから、その意義と中小企業での取り組みなどを紹介します。

経営上の戦略として

「ワーク・ライフ・バランス」とは、「仕事と生活の調和」と訳され、1990年代初頭、不況期にあったアメリカで考え出された概念・取り組みと言われています。

 もともとこれはCSR(企業の社会的責任)的な考え方ではなく、経営上の戦略として取り組まれた制度で、従業員が仕事と生活のバランスを保ち、より充実した社会生活を送れるよう支援するための制度の策定・運用を積極的に行うことで、生産性の向上や優秀な人材の確保につながり、経営的なメリットが大きい、というものです。

 厚生労働省では、「男性も育児参加できるワーク・ライフ・バランス企業へ~これからの時代と企業経営」という調査報告書を昨年10月に発表。企業向け小冊子は10万部発行。そこには「ワーク・ライフ・バランスとは、働く人が仕事上の責任を果たそうとすると、仕事以外の生活でやりたいことや、やらなければならないことに取り組めなくなるのではなく、両者を実現できる状態のことです」とあります。

企業に求められる両立支援

問題となる長時間労働と非正規雇用の増加

 内閣府「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」は、昨年12月に「両立支援・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進が企業等に与える影響に関する報告書」を発表しました。

 「先進国では女性労働力率(有業率)が高い国の方が出生率が高い傾向がみられる」とし、国内分析では総合的両立支援が必要であり、「特に長時間労働の是正や非正規問題への対応を含めた『働き方の見直し』や地域における『社会的な子育て支援体制の構築』が大きな課題」としています。

小企業ほど働く母親(正社員)に柔軟な対応

 この報告書で注目すべきは中小企業の対応です(2006年版中小企業白書を引用)。大企業では諸制度が整っているものの、利用されていない割合が高くなっています。しかし、中小企業は仕事と育児の両立に対して個別事情に柔軟に対応している企業割合が高く、従業員規模が小さい企業ほど女性正社員で乳幼児期を過ぎた子どもを育てている世代の比率が高く、1人あたりの子ども数が多いことが示されています(図)。

正社員一人当たり子ども数

(注) yahoo!リサーチモニターから抽出し、4,915人が回答。
(資料) (株)富士通総研「中小企業の両立支援に関する企業調査」(「中小企業白書」(平成18年))に掲載

導入企業では不良品率が劇的に低下

 また、施策導入事例として「ワーク・ライフ・バランス施策導入後に不良品率が劇的に低下」((株)カミテ、従業員30名、プレス金型設計・製作など)、「会社説明会に集まる学生の量・質が向上」((株)ふくや、従業員583名、食品製造)などが紹介され、企業に与える影響について以下3点にまとめています。

 (1)女性を積極的に登用している企業は、人材育成・活用が進んでおり、企業経営にもプラス、(2)仕事と生活を両立させる環境は女性の定着をもたらし男女双方が仕事へのプラス効果を実感することで経営にもプラス効果、(3)女性を含む多様な人材活用は企業の長期戦略や社会的責任として組み込まれる方向にある。

対策と課題

 今年1月に発表されたインターナショナル・リサーチ・インスティチューツ(iris)による世界24カ国(EU諸国やアメリカ、中国、韓国など)1万4000人を対象にした「仕事と家庭の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する世界意識調査」では、ワーク・ライフ・バランスの不満を持つ人の割合は世界24カ国中、日本が一番多くなっており、転職などで「改善を試み、その結果非常に改善した」と答えているのは4%と24カ国中最低となっています。

 このような現状に、厚生労働省は次年度の少子化関係予算で約1兆5000億円を計上。仕事と家庭の両立支援として、企業向けに企業の行動計画の策定実施(次世代認定マーク)支援、生活に配慮した労働時間の設定改善、両立指標の開発・普及を行う予定です。

解説

 少子化の流れを変えるため、政府は「ワーク・ライフ・バランス」の考え方を打ち出し、企業に「働かせ方」の見直しを迫っています。

 取材先の内閣府男女共同参画局担当官は「大変な中でも中小企業が柔軟に子育てをしている社員に対応しているのに驚きました。中小企業経営の現場をもっと知りたい」。厚生労働省の担当官は「『中小企業子育て支援助成金』や育児参加を支援する『両立支援レベルアップ助成金』などを積極的に活用してほしい」と話しています。

 地域の雇用を守る中小企業への期待は高まっています。社員をパートナーとして、その力を引き出すことの大切さは、「労使見解」(「中小企業における労使関係の見解」、中同協発行パンフレット『人を生かす経営』所収)の学びに通ずるものです。

 厳しい経営環境ではありますが、社員の力を引き出すためにも、各企業で「ワーク・ライフ・バランス」施策を実施し、できることから着手することが期待されています。

中同協事務局次長 平田美穂

「中小企業家しんぶん」 2007年 2月 15日号より