ファミリービジネスは世界の主流~同族会社「悪者」論をただす

 2007年度の税制改正で同族会社に関する重要な改正措置がありました。ひとつは、中小同族会社(資本金1億円以下)に対する留保金課税制度の撤廃です。この制度は、法人税を払った後の利益に対する二重課税であり、合理性を欠く不公正税制として、私たち同友会や中小企業団体が長い間反対してきましたが、ようやく撤廃されました。

 もうひとつは、特殊支配同族会社の役員給与の給与所得控除相当部分の損金不算入措置に関して、適用除外要件である基準所得(課税所得+業務主宰役員給与)が800万円以下から2倍の1600万円以下に引き上げる見直しが行われたことです。こちらは、導入1年にして、早くも基準所得を手直しせざるを得なくなったわけで、不公正な税の枠組みは変わっていませんが、1つの改善として評価できます。

 問題は、これらの税制度の背景に、「同族会社は税逃れをする存在」「家計と企業会計を混同させ、私腹を肥やす」という発想が課税サイドに根強くあることです。初めから「不正なことをする存在」として課税する仕組みをつくっており、同族会社「悪者」論の立場に立っています。

 確かに、同族会社の中には脱税行為に及ぶ輩がいることは事実ですが、一般企業でも同様のことはあるわけで、同族会社であるなしにかかわらず違法行為として対処すればいい話です。「同族会社だから悪い」と差別的に扱うのは不当です。

 ここで、見逃せないのは、行政の「悪者」論ほどではないにしても「世間一般」にも、「同族会社は良くない、遅れた存在である」という意識が厳然とあることです。このような意識は私たち中小企業サイドにも多少にかかわらずあります。これは今後、会内でも大いに議論すべきテーマです。 その際、同族会社が広範に存在する客観的事実(家族経営を維持する合理的理由が存在する)と、個々の同族会社で経営革新・改革を進める自助努力を区別して考えることが大切です。個々の会社が魅力ある企業となるために、経営の内在的必要性に基づいて経営努力することが重要であり、「遅れた同族会社」を「近代的企業」に脱皮させることが当然であると単線的に考えるべきではありません。

 しかも、世界に目を転じると、家族・同族会社に対する見方が全く違ってきます。末廣昭著『ファミリービジネス論』(名古屋大学出版会)によれば、上場企業の中の「家族所有型企業」(株式の20%以上の単独所有主あり)の比率は地域を問わず高く(アジアで4~7割、ヨーロッパでも5~6割)、例外的に低いのが日本(9・7%)やイギリス、アメリカであるというデータを紹介しています。同書は、経営学の「経営者支配論」などの想定に反し、近代産業資本主義の段階に達しても、ファミリービジネスは依然広範に存在している事実に着目し、その実態と課題を分析します。

 近年、アジア・中国の経済的発展に華僑・華人系企業グループの果たした役割の大きさが指摘されていますが、同書ではタイの事例を基に、ファミリービジネスが後発工業化の担い手となっていることを論じ、国民経済の発展に果たす役割を解明しています。

 今後、同族会社論、ファミリービジネス論の豊饒な発展が期待されます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2007年 2月 15日号より