中小都市での中小企業振興が鍵 下平尾 勲・福島学院大学教授に聞く

 少子化問題の原因に、長時間労働と非正規雇用の増加があるとして、内閣府や厚生労働省などが指摘する個々の企業の「仕事と生活の調和」(ワーク・ライフ・バランス)の取れた働かせ方の問題を、前回紹介しました。今回は少子化問題には地域間格差の問題があると指摘する下平尾勲・福島学院大学教授に話を聞きました。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

なぜ少子化なのか、本質を考える

―――――――――――――――――――――――――――――――――

―少子化問題を解決するためには、若年者の雇用が守られ、その生活が保障される環境が必要であると考えられます。しかし地域によっては地方経済が疲へいし、働く場所が失われてきているようですが。

下平尾 「少子化だから、失業者が増えたからその対策を」では、現在の少子化問題も根本的に解決しません。まず「なぜ少子化なのか、なぜ失業者が増えたのか」の本質をとらえ、検討していくことが大事です。

中山間地の現状

 地域を考えるとき、拠点都市、中小都市、中山間地の大きく3つに分けて考えています。この中で中山間地である農山村は、従来の稲作では生活に足る所得が補償されず、農業収入は補助的収入にとどまり、兼業が一般的です。この間さらにその地域の就職先であった郵便局は統廃合され、農協も合併、学校も統廃合が進んで教師の数も減り、中山間地の若者は地元で働きながら農業をすることさえ難しくなり、地域のリーダーとなる人材が流出しています。

 一方、大手メーカーやスーパーなどが続々と建設される傾向にあり、そこではパートや派遣での雇用形態が圧倒的多数を占め、雇用機会は増やしているものの、家計収入が少ないため、本社が東京である郊外の大規模ディスカウントショップに消費構造が依存し、地元経済への波及効果は薄くなっています。みんなが働いて得られた収入をもって、地元で消費していけば、小さな事業所も増え、人口も増加します。中小企業の盛んな地域では、子どもはたくさんいます。経済的に活力があるからです。

町が暗いのは人が 暗いから

 「町が暗い」のは「その町に住んでいる人が暗い」からで、その町を明るくするために目先のイメージを変える施策を打っても、住んでいる人がその地域を愛し、誇りを持つことにならなければ、本質的な解決にはなりません。

 自分の住んでいる地域が好きで、仕事や地域活動で動きまわっている人が多ければ、町は明るくなり、にぎわいます。子どもも増えていくので、そのような元気で、魅力的な地域にしていく必要があります。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

中小企業はその地域に根をはる「植物」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

―では、その手がかりをどのように考えればいいのでしょうか。

下平尾 産学官連携で品種改良を行い、独自作物を作る、作物の年間栽培など回転率を上げる農業を「脳業」として取り組むなど、中山間地そのものの振興を図る一方で、そこから通勤できる中小都市の中小企業の振興を図ることが大切です。

 地域資源に依拠し発展してきた地場産業など、中小都市には一定程度の産業の集積があり、金融、行政からの支援も受けられやすい環境にあります。中小企業は地元の伝統や文化を維持するための主要な役割を果たしており、経営者自身がPTA役員を務め、町内会の役員をするなど、地域を支える核となっています。

 大企業が獲物を求めて移動する動物だとすれば、中小企業はその地域に根をはり、その地域とともに成長していく植物。

既存企業の振興を

 新産業やベンチャーなどによる地域振興はその成功率が低く、時間がかかる。既存企業から可能性を引き出すとともに、産業集積としてもそのすそ野の広い中小企業の振興を重点政策にすべきでしょう。

 平成の大合併で86市町村から23、70市町村から20になっている県があり、「地域経営」ということが大変重要となっています。地域の現状と諸条件を見極め、課題を明らかにし、中長期的な方向性を打ち出し、合意形成を図り、足を踏み出すことです。その時に必要なのは雇用の拡大(完全雇用)と地域の自立であり、中小企業を中心とした地域産業の振興はとっても重要です。

 効果のあるのは既存の中小企業の横断的な連携(中小企業家同友会のような)や地域ブランド戦略です。地域の中小企業の振興の知恵と支援が、産業政策ばかりでなく地域経営の上からも大切だと考えています。

「中小企業家しんぶん」 2007年 3月 15日号より