地域と企業間取引の分析に本格的に踏み込む~『2007年版中小企業白書』を読んで

 「2007年版中小企業白書」は、第1部「中小企業の動向」、第2部「地域とともに成長する中小企業」、第3部「経済構造の変化にチャレンジする中小企業」の3部で構成。今回の白書の副題は、「地域の強みを活(い)かし変化に挑戦する中小企業」です。

 白書を執筆した中小企業庁調査室の方によれば、今回の白書にはこれまでにない次の視点があるそうです。

 第1は、地域と中小企業のかかわりを本格的に分析したことです。確かに、これまでの白書の副題には「地域」という言葉はなく、今回初めて登場しました。

 第2には、雇用に関する分析を深め、キーパーソン人材の確保と育成の課題を明らかにしたこと。

 第3には、景気回復局面で中小企業の回復がなぜ遅いのかを分析していることです。

 今回の白書は、かつての白書のような、あれこれ分析している割には「当たり前の結論」でしかないという肩すかしを食うような記述は少なくなり、踏み込んだ「おもしろい」分析がさえています。

 特に、従来と異なるデータで分析し、これまでにない切り口で検討していることが注目されます。たとえば、第1にNTTタウンページデータベースを用いることで、これまで把握されていた水準よりも、高い頻度で開業と廃業が起こっていることが判明したこと。

 また、POSシステムデータの分析により、農林水産型の商品では、中小企業の商品の方が、大企業よりも高価格帯に存在することがわかりました。たとえば味噌製品では、中小企業の商品が大企業の最も売れている商品の2倍以上の価格で売れている割合が30.9%、3倍以上で売れている割合が11.1%。しかも、やみくもに高い値段で売っているのではなく、付加価値を増大させ、販売数量も維持拡大させていることも分析からわかります。

 第3に、東京商工リサーチ「企業相関データベース」により、製造業14万社の仕入先と販売先データから大企業と中小企業の取引構造の実態を解明したこと。ここでは、従来の長期的・固定的な企業間の取引構造が、多面的で網の目のようにメッシュ化していると特徴づけられています。

 以上のように、新しいデータによる中小企業の実態への切り込みが新鮮です。また、地域問題や小売・大型店問題、不公正取引問題などこれまでの白書が正面から論じることの少なかった問題にも踏み込んで分析している点が出色です。

 特に、大企業と中小企業の取引では、「重さを基準とした値決め」など従来の取引慣行の残存により、技術が価格に適正に反映されていない状況なども分析されています。さらに、価格決定権を持つための条件にも分析が進みます。

 ここで、価格交渉力を確保している事例の中に、同友会企業が2社紹介されている点には励まされます。1つは、驚異的なコスト低減を実現することで、中国製品と価格面でほぼ互角の製品を製造している例。もう1つは、発注内容を正確に確認するため、要求基準確認書を作成するなど書面化によりリスクを回避している事例です。

 なお今回の白書では、実名で紹介されている30社の企業事例中、会員企業が7社という高比率でした。同友会が先進事例の宝庫となり得ることを白書からも実感できました。

(U)

 *詳しくは中小企業庁のホームページを参照下さい。
  http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/070424hakusyo.html

「中小企業家しんぶん」 2007年 5月 15日号より