相互扶助精神の新たな再興を~マネーの論理に巻き込まれない金融への期待

 昨年の「規制改革・民間開放推進会議第3次答申」では、「協同組織金融機関(信用金庫・信用組合)が果たすべき今日的な役割を踏まえ、その業務及び組織の在り方につき、総合的な視点から見直しを検討する必要があると考えられる」とし、今年度から検討するとしています。

 報道によれば、「金融庁は信用金庫と信用組合の業務形態を抜本的に見直す方針を固めた。営業地域や貸出先について原則として規制をかけない『地方銀行型の信金・信組』と、従来通り地元の中小・零細企業を主な取引先とする『地元密着型』に再編する方向で検討する」(「日本経済新聞」2006年12月24日付)と刺激的に背景を述べています。

 これと似た議論はこれまでもたびたび検討され、決着してきました。1960年代の金融制度調査会では、最終的に信用金庫の必要性を改めて確認する判例的判断を示しています。

 この際、信用金庫界の歴史的リーダーである小原鐵五郎氏は、「信用金庫は中小企業の金融機関だ。株式組織にすれば、大企業中心になってしまう」「富士山の秀麗な姿には誰(だれ)しも目を奪われるが、白雪に覆われた気高い頂は、大きな裾野を引いた稜線があってこそそびえる。日本の経済もそれと同じで、大企業を富士の頂としたら、それを支える中小企業の広大な裾野があってこそ成り立つ。その大切な中小企業を支援するのが信用金庫であり、その役割は大きく、使命は重い」と論陣を張りました。有名な「裾野金融」論で「小原鐵学」と称されるものですが、今日でも十分有効な考え方であり、見識です。

 昨年、バングラデシュの「グラミン銀行」とムハマド・ユヌス総裁が「マイクロクレジット事業」の推進により、ノーベル平和賞を受賞するという世界的にエポックな出来事がありました。近年、市場万能主義への反省から、金融に限らず地域経済の再生や社会制度改革等において相互扶助精神や協同性を重視しようという流れも再び強まりつつあり、ユヌス氏の受賞もそのような機運が背景にあると考えられます。

 もし協同組織金融機関が株式会社化するとすれば、TOB(株式公開買い付け)など乗っ取りのリスクにも直面することが現実になります。株式を発行していない協同組織金融機関は、外資・大資本による乗っ取りが不可能であるという意味では安定的な経営が可能であり、相互扶助精神に基づく金融を通じた社会貢献や地域コミュニティーの再生という社会的役割などから協同組織金融機関の再評価が進むとすれば、株式会社化で「普通の銀行」になることが、協同組織金融機関にとってどのような積極的な意味があるのでしょうか。

 グローバル経済が進展し、マネーが暴れまくる現代、人と人が助け合う、つながり合う協同組織の理念が21世紀に新たに再興されることが求められています。今こそ原点に立ち戻り、相互扶助精神の再興と中小企業との連携を進めていきましょう。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2007年 6月 15日号より